幻創文芸文庫 (β)

小説好きの創作小説を無料配信*スマホ対応

ノンジャンル

これは王国の夢

   

高須 晃はアニメーター。だが、年収は二百万。妻の芽以子の支えがなければ暮らしていけない。
夢とやりがいを取るのか。それとも現実の生活を取るのか。
悩める晃、そして芽以子が出した答えとは?

夢や希望だけでは人は生きていけない。だが、なくても生きていけない。
独立短編『これは王国の夢』配信

※諸注意
本作品はアニメーターおよび関係者の実態に迫るわけでも、非難する内容でもありません。内容についてもあくまで作者が調べた範囲内での表記です。
そのため多くの間違いがある可能性があります。
本作品は、なぜその結末に至ったかという内容です。
才能があって成功する人、またその反対の人たち。
それを分けるのはいったいなんなのでしょうか。
一般的に成功すると言われている人たちがほんの一握りであり、二十代三十代で離職する方も多いのも事実です。

 

これは王国の夢

 いつもの日曜日。
 芽以子は大きく深呼吸すると、まるで決闘に臨むかのように文字のかすれたリモコンの電源を押し込んだ。
 ぱちぱちと大きな瞬きのあと、点ったブラウン管のテレビから暑苦しいほど元気な曲が流れてくる。そして、画面いっぱいに広がる赤い文字。
【ロックンローラーファイター】
 子ども向けアニメだ。
 音楽に合わせ、続けざまにアップになるのはデフォルメされたキャラクターたち。日常の一コマを切り取ったスナップ写真のように登場する。
(次……次!)
 手入れされてない芽以子のくすんだ肌が紅潮した。リモコンを握る手に力が入る。
 クールを体現したかのような青い髪の青年が振り向くと、芽以子は歓喜の悲鳴をあげた。
「凜様ぁ!」
 このシーンを、アニメーターで夫の晃が描いたらしい。
 まるで拝むように画面に向かって五体投地をかますと、隣の部屋から抗議の壁蹴りが放たれた。慌てて居ずまいを正し、深呼吸をひとつする。
 芽以子はアニメファンではない。それでも、夫が描いたキャラクターが動いて声を吹き込まれ、動いているのは心の底から嬉しいことだった。
「また見てるの?」
 日当たりの悪い六畳間の襖が開き、シャツとトランクス姿の覇気のない男がのそり、と起きてきた。
 夫の高須 晃である。
「だって、晃が描いてるんだもん」
 ちらりと芽以子が振り返ると、開け放たれた襖の向こう、机の上から床までデッサン用紙があふれている。一週間ぶりに制作会社から帰ってきたというのに、晃はまた、絵を描いていたらしい。
 当の晃は、自分が携わったアニメは一顧だにせず、日当たりが悪くてじめっとした台所に向かうと冷蔵庫の牛乳をパックのまま飲んだ。
 唸る顔には無精ひげとクマがひどい。いったい会社で何徹したんだろうか。一度ならず幾度も会社で吐いたことがあるという。
 それほどまでに晃の仕事は、体力的にも精神的にもきついものだった。
「今日も出勤でしょ? お弁当作っておいたよ」
「……うん」
 晃は目をごしごし擦ると、やっと自分が眼鏡をかけ忘れていたのに気づいたらしい。のろのろ六畳間に戻ると、よろけながら出てきた。
「ご飯、食べられそう?」
 アニメは前半パートがすでに始まっている。芽以子はちらちらと見ていたが、晃は念のための出来映え確認というように、ほんの少し厳しい視線を向けただけだった。
「うん」
 晃は最低限のことしか言わない。元々口数が少ないところを持ってきて、疲労が重なっているものだから頭も口も回らないらしい。
「用意するね」
 芽以子がパート先でもらってきたマカロニサラダ、八切れ九十八円の食パン、一杯分だけ残った牛乳が彼らの朝食だった。

 

-ノンジャンル


コメントを残す

おすすめ作品