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道 第十四回 崩壊の兆し

   

平成20年6月、木下久美子の告発によって始まった裁判は刑事事件としては無罪となったが、民事では木下久美子側は損害賠償を、柴崎・栗原側は名誉棄損でやや泥仕合の様相を呈してきた。

柴崎は民事で優位に立つため、世論を味方につけようと「巨匠栗原画伯、次世代を担う若き才能を直接指導!」と大々的にマスコミにアピールする作戦に出た。選ばれたのは飛翔展でプロデビューした松森治。

しかし、栗原の要求は松森にはレベルが高すぎ、また指導経験のない栗原の言葉は情け容赦なく、松森を傷つけ、委縮させてしまう。

誰も栗原に意見できないが、精神的に追い詰められた松森を救い出したのは、以前、彼を柴崎に売り渡してしまった佐々木画廊の佐々木徹。

佐々木は柴崎と袂を分かつ決意を固めた。柴崎派は崩壊の始まりとともに、栗原の運命も・・・

 

第二十二章 無罪判決

平成20年6月、木下久美子の告発によって始まった裁判は刑事事件としては無罪となった。しかし、民事では、木下久美子側は損害賠償を、柴崎・栗原側は名誉棄損でやや泥仕合の様相を呈してきた。

「いまいましい奴らだ。『女性の敵、栗原を許すな』とは生意気な。繁、何とかしろよ。」

栗原は芸術家らしくストレートに感情を現し、不快な表情を隠さない。

「陽一朗、ここは我慢しろ。刑事で無罪になったから、民事ではこっちのものだ。今まで久美子には相応のことをしていたのだから、向こうは文句を言えないはずだ。」
「当たり前だ。」

憤る栗原を落ち着かせるため、柴崎はビールを注いだ。

「くそ、気晴らしにパリに行くかな。」
「ダメだ。それはダメだ。」
「どうしてダメなんだ。俺の自由だろう。」
「今、海外に行けば、逃げ出したことになる。堪えろ、陽一朗。」

栗原は思い通りにならぬことへのイラつく栗原を柴崎がなだめる。

「お前は日本の宝だ。俺はお前を絶対に守る。」
「分ったよ、繁。」
「アートサロン・シバサキはお前がいてくれれば復活できる。それに、松森だ。」
「松森?あの小僧がどうした?」
「いいから俺の話を聞け。
 松森は長谷川の親爺さんが預かってくれている。
 陽一朗、お前は松森をじっくり育てるんだ。」
「なんで俺がそんなことをしなくちゃいけないんだ。」
「お前の名前が大事なんだ。
 巨匠と言われているお前が、若い松森を育てる、そうすれば、世間はどう思う?栗原陽一朗は生まれ変わったと思うぞ。」
「まあ、これまで俺が人を育てたことなんてないからな。」
「そうだ。だから、効果があるんだ。
 お前のことを悪くいう奴はいなくなる。
 いいか、お前は松森を育てるんだ。」
「分った。お前の言うとおりにするよ。」

同じ悪党でも柴崎は黒幕として数々の修羅場を経験してきているだけにしたたかである。

「俺は長谷川の親爺さんと体制の立て直しを相談する。
 今は前田画廊の副島が仕切っているが、取り返さないとな。」

グラスのビールを飲み干すと、柴崎は電話に手を伸ばし、かつての仲間たちを招集をかけた。

 

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