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SF・ファンタジー・ホラー

サクリファイスⅡ 完結編5

   

シャルルへと、初めて語られるロザリーナの家族。
隣に現れた新たな入居者は、シャルルにとって思いがけない人物であった。

オカルトファンタジー、第二弾!

 

 それから、一週間が過ぎ、二週間が過ぎた。
 シンディがシャルルのアパートを訪ねてきたのはあれっきりで、その事についてはウエイトレス達も知らないようだった。
 ロザリーナに気を使ってか、シンディはカフェではシャルルと会話をしようとしないし、ロザリーナはロザリーナでシンディに対して無関心であった。
「いらっしゃいませ」
「元気?」
「ええ。相変わらず」
 毎日、同じ台詞だけが流れた。テープレコーダーでも、九官鳥でもいいんじゃないかと思える程に、だ。
 毎日、代わり映えがなく、平和で退屈な日々だった。
 だが、この日は少し違っていた。
 カフェから帰宅し、部屋に入ろうとすると隣の部屋が騒がしかった。構わず彼が部屋の扉を開けたところで、慌てたようにジャネットが飛び出してきた。
「シャルル! 今日から、三人で住むの」
 とっさの事に、シャルルは声を出せないでいた。代わりに、隣のロザリーナが口を開いた。
「とても、嬉しそうね」
 ジャネットは、頬を赤らめ息を弾ませて言った。
「姉さんが、留学してた姉さんが帰ってきたの。とても仲良しなのよ。本当に、早く会いたかったもの。また一緒に過ごせるなんて、幸せだわ」
「そう、それはよかったわ」
「ありがとう。貴女もシャルルも今夜部屋に来てちょうだい。パーティをするから」
「喜んで」
 それだけ言うと、ジャネットは部屋に戻った。
「そういえば、シャルルに兄弟は居たの?」
「僕には、居ないよ。代わりに幼馴染みがいた。ロザリーナは?」
「私には、二人の兄と弟が居たわ。仲はまあまあ良かったわよ。馬も剣も、本当は兄に習ったの」
 シャルルの目が輝いた。
「ロザリーナの話を聞くの、初めてな気がするよ。今度は、君の話を聞かせてくれないか」
「いいわ」
 ロザリーナは部屋に入ると、カーテンを開けて海を見つめた。そして、徐に言葉を紡ぎ始めた。
「私には、二人の兄と弟が居たの。兄弟で女は、私だけだったわ。子供の頃、兄は私をとても可愛がってくれた。一番上の兄は、馬の乗り方や馬車の扱い、それに剣も教えてくれたわ。二番目の兄とは、家の戸棚からお菓子を盗んだり、家庭教師の悪口を落書きしたりして、イタズラばかりしていたわ。私のイタズラも二番目の兄が庇ってくれて、兄はよく折檻されていた」
 ロザリーナが、懐かしそうに笑った。柔らかく、心から想っている表情だった。
「けれど、そんな時代は短かったわ。皆、大人になったから。家を継ぐのは一番上の兄だったし、兄のサポートをするのは二番目の兄と弟だった。だから、私はいつしか独りぼっちになっていた。そんなある日、一番上の兄が私の結婚を持ちかけてきたの。本当に一方的で、しかも家の為の結婚だった。顔も見たことない相手を、家柄だけで私の夫に決め、私に拒否権はなかったのよ。それで、家出したの」
 シャルルは、ロザリーナらしいと苦笑した。
「暫くは、空き家や寂れた教会を見つけて寝泊まりしていたわ。食べ物は、親切な老婆が恵んでくれた。けど、運悪く海賊の襲撃に遭って、そのまま海賊よ」
「じゃあ、もうそれっきり?」
「ええ。つまらない今生の別れだったわ」
 ロザリーナは踵を返して、窓を背に歩いた。その先の椅子に、どかっと座った。
「貴方と別れてから、百年くらい後の話かしら。家に帰ったの。そこにあったのは、兄の孫が建て直した家だったわ。兄の仕事は、当時に比べれば勢いは落ちていたものの、細々と続いていた。流石、私の兄だわ」
 シャルルも、ロザリーナの近くに椅子を持ってきて腰掛けた。
「海はね、私にとっては始まりと終わりを意味しているのよ。あの日、お嬢様だった私は居なくなり、自由に旅立った私が生まれた。私は自由。サクリファイスになっても、錬金術なんかに屈服しない」
 窓の向こうで、波が穏やかに揺れているのがわかった。
「それにしても、シャルル。貴方、この時代ではモテるのね」
 ロザリーナが、落ち込んだ空気を変えようとしてか、突拍子もない話題を持ち出した。
「何を、言ってるの?」
「この前のお花、貴方へのプレゼントでしょ? それに、いつも行くカフェだけど、皆貴方の事しか見ていないもの。きっと、こう思ってるわよ。あの女、明日こそは来ませんように! って」
「ロザリーナ、冗談がきついよ。いつからそんな皮肉っぽくなったんだい? それに、酷く饒舌だ。もう、僕は部屋に行くよ」
 降参、とでも言うように、シャルルは軽く両手を上げて立ち上がった。
「これも、年を取った成果よ」

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