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ハートフル

モモヨ文具店 開店中<10> 〜モモヨさんと吟遊詩人〜

   2015年5月29日  

今回のお客さんは即興詩や手紙を書いて売っている手紙屋さん。
わたし、便箋と封筒の自作をして売っているのよ。
それで手紙屋さんがお代がわりにって書いた即興の手紙が、なんとも不思議な物なんだけれど……どうやらこれ、対になっているみたい。
『モモヨさんと吟遊詩人』へどうぞいらっしゃい。

 

モモヨさんと吟遊詩人

 からからと開く引き戸に作業台の百代さんが顔をあげた。
「お世話様です。出来上がりましたよ」
「いつもお世話になりますねえ」
 町の印刷所・待本印刷さんが大きい段ボールを二つ置いた。箱のなかにはいろいろな便箋や封筒がお行儀良く並んでいる。チェックのために何点か取り出して確認する。どれも満足する出来だった。自然と胸が高鳴る。
「小ロットなのにいつも悪いですねえ」
 待本印刷の営業さんは闊達に笑った。
「企画出されたときどうしようと思ったけどねえ。なんたって、自作便箋と封筒だから。けど、意外にいけるもんだね。県外からの発注も来るようになったよ」
 百代さんは自作の便箋と封筒をばら売りしている。便箋一枚二十円。封筒一通三十円。近場の小学生には手頃な値段でよく売れている。店に置いてあるのは常時十種類。お客は相談してオリジナル便箋を作ることも出来る。
 今回はそろそろ〝あれ〟の時期が近いとのことで、多めに作っておいたのだ。「じゃ、私はこれで」
 はんこをもらった営業さんが戻っていくのと、その人が来たのはほとんど同時だった。
「どうも。ご店主」
 現れたのはけったいな男だった。
 裾を引きずるほど長い茶色のマントに筒状のリュックを背負っている。丸眼鏡の奥の目は人懐っこそうな明るいオレンジ色で、笑うと光を弾いた。肌の色は限りなく日本人に近いが、どの人種にも属さない自由さがあって正体は不明。本名も住所も年齢もなにもかもが分からない。もじゃもじゃ頭に妖精のような垂れた帽子をかむっている。手には使い込んだ革のトランクと木の画板。だらんとだらけきっているようで、そのくせ端々まで見とおす聡明さも持ち合わせている変な人だった。
「こんにちは手紙屋さん。ちょうど入荷したところですよ。お好きに選んでいってください」
 百代さんがいつもの笑みで出迎える。
 手紙屋と呼ばれた男は、〝あれ〟こと年に一度行われる月世野主催の個展の主役だった。手紙屋は客に出されたお題で即興詩を書いたり、封をした手紙を一通数百円で売ったりと不思議な商売をしながら世界各地を回っている。
 熱烈なファンも多く、個展はたいへん賑わう。県外からの客も来るほどだ。
「もう個展の準備はなさったんですか?」
「うん。もうだいぶね。これだね、ご店主の今回の新作は」

 

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