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SF・ファンタジー・ホラー

cat 〜その想い〜 9

   

 三日後、杏那の葬式に岱馳も参列した。胸の中が空っぽになった岱馳は、この場にいることへとの憤りと空虚感に支配されている。
 そんなとき、参列する女性たちからの視線に違和感を覚える。どういうわけか、岱馳のことを見ているのだ。そして、不可思議にも杏那の同年代の男性がひとりもいない。女性ばかりだと気づいた。
 居心地の悪さと、女性たちの視線に疎外感を抱かずにはいられない。
 女性たちは「ありがとう」というのだ。感謝される覚えもない。なのにその感謝の言葉の意はなにが含まれているのか、疑念がよぎる。
 岱馳の同僚たちが遅れて現れた。すると、柴田 明日香が岱馳へ礼をする女性たちのところへいき、事情を伺う。
 すると杏那のしらなかった顔をしった。それはあまりにもしらなすぎた。岱馳はどことなく切なく、それでいてなにもしらなかったことに落胆さえする。

 彼女は人望もあり、周囲の女子から信頼されていた。しかし、恋愛感だけは奥手だった。あまり興味を示さないようだ。見かねた友人が、一人の男子を紹介した。
 純愛な恋愛だったその恋は、悲恋となる運命が見えているのにも関わらず、杏那は一途だった。

 杏那の将来は、可能性のある夢があった。その夢が今もまだ生きていたのか、それとも放棄したのか、岱馳と出会ったとき、それは不明だった。ただしらなかったのだ。しかし、その答えがわからないまま杏那は亡くなってしまった。それだけでも岱馳は、なにひとつ杏那のことをしらないのだと思った。

 杏那の知られざる過去が、現在に影響を及ぼしていた事実をしった岱馳。それは意外にも彼の運命を変えることになる。

 

 杏那の死から三日後葬式がおこなわれた。
「本日はお寒いなかご多忙中にも関わらずご参列賜りまして誠にありがとうございます―」
 杏那の実家の庭から、拡声器を通じて声がきこえた。開葬の辞のマイクを通して杏那の家族の男性が話している。
「あの父親か」岱馳は病院で会ったときの父親の姿を思い浮かべた。

 葬儀。杏那の人生がいまここで完全に終わったことを意味する。
 はっ、と気づいたことがある。ここには男性がほとんどいない。その場に男性は岱馳しかいない。
 その場にいる女性たちから異様な視線を感じる。そして会釈される。場違いのようなよそよそしい態度。だがそれがちがうのだとすぐにわかる。

 こうやって葬儀に参列して他人事のように辺りを見渡すと杏那とおなじくらいの女性ばかりだが、かなりの数の人がきている。どうやら杏那は意外にも人望が厚かったこと、あとになってこの葬儀中に知り得た。
 葬儀に参列した友人、知人はとても多く小学校、中学校、高校、大学(専門)の同級生が杏那の死を嘆きに参列していた。全員女性ばかりだったのが気になるも、逆におなじくらいの年代の男性は一人としていなかった。もちろん彼女の家族親族は別にしての話だ。
 親族以外の男性が参列していることで、周囲の女性はすぐに杏那の恋人だとわかったようだ。女性たちは岱馳に近づくなり口々に、「ありがとうございます」を連呼している。意味がわからず「はぁ」としかこたえられなかった。
 いったいどういうことなのか、潤わす目から涙を浮かべる女性たちの陰りのある顔を見てはきくにきけず、こういう場だから余計に気を使ってしまった。
「よっ、どんな塩梅だ」
 梶原がほかの同僚、柴田、林、市来、富士がきれくれた。案の定、坂下はいないことを確認する。
「はじまっているよ」岱馳は少し安堵した。自分の置かれている立場が整理できず、空っぽの心をどこにおいてよいものかわからずに浮き足だっていた。
「しかしなんか女性ばかりだな」
 さすが梶原だ。鼻が効く。目もいい。
 同意見だがたしかに女性ばかりで、岱馳はよそよそしく身を屈めていた。
 同僚が来てくれてホッとした。
「それに妙なんだよ。どういうわけか女性たちがつぎつぎに礼をいってくるんだよ」と梶原たちに話した。
「なんだそれ、奇怪な。恋人とはわかってもわざわざ礼をいわれるようなことしたのか。会ったことあるのか。ほかの女性たちと」梶原も自分の問いに首を傾げた。
 ない、と岱馳は言った。

 杏那の家族から感謝される意味はとおるがそれとおなじ理由で杏那の友人たちからも感謝される意味はとおらない。
「わたしたちがきいてくるね」
 でしゃばりな柴田 明日香が言った。だがこういうときにはもってこいの人物だ。明るい表情と屈託のない性格なら、なんとか悲しみ渦巻くこの領域で、うまく事実の答えを探ってくる。林と市来も同行した。
 明日香は、肩を寄せあいながら落胆している三人組の女性のところにむかった。その三人からも岱馳は礼をされていたことを話し、明日香はターゲットにした。
 遠目から明日香たちが三人に話しかけている光景を一望していたが、ほとんど明日香だけが調査をしている風に見える。林と市来は背後霊のようにうしろにくっついていた。もしくは、明日香のちからをひきだすための守護霊役になっていたのかもしれない。
 三人は会釈し、岱馳のところにもどってきた。その間、岱馳のところには別の女性がまた「ありがとうございました」と何人も何人もひと言、礼を述べて去っていく。事実をのみ込めないまま、いまの岱馳では愛想のない返事しかできなかった。きいてみればよかった。梶原がいるし、と思ったが梶原はこういう場では本来のちからが発揮できず借りてきた猫状態におとなしかった。
「どうだった。ずいぶん時間がかかったな」
 梶原がもどってきた明日香たち三人に言った。
 三人の顔は浮かない表情になっていた。明るい表情が印象の明日香でさえ、網がかった魚のような顔になっていた。
「うん、あのね。きいたら驚くかもしれないけど、だいじょうぶかな。岱馳さん」
 胸の鼓動がはやくなった。明日香の見たこともない沈静な視線を逸らす話に真剣になった。明日香の口から、岱馳は杏那の過去をしることになった。

 

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