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SF・ファンタジー・ホラー

cat 〜その想い〜 11

   

 岱馳は、朝だというのに猫が起きずに眠りつづけていることに不安を覚える。
 以前にも、こういうことがあった。まるで、夜遊びでもして帰ってきた不良のようだ。

 テレビのニュースで、不可解な事件が報じられていた。池袋の公園で惨殺された中辻のような、全身を刃物で切り裂かれた女性の遺体が発見された。
 警官が女の叫び声をききつけたとき、眼前には濃霧がこめていた。まるで犯罪を覆い隠すカーテンのように。それが意味するものがいったいなんなのか、わからない迷宮事件の二事例めだ。

 女性は、岱馳も知る人物だった。名前だけしっていた。
 ピアニスト、藤村 葵だった。杏那の恋人だったヴァイオリニストを大人の色香で寝取った女だった。

 岱馳は驚愕だった。

 岱馳と猫の暮らしもなじんできた。そんなとき、同僚たちから岱馳へ新たな出会いをおしつけてきた。
 そんなくだらないこと、無駄な時間と浪費に闇から抜け出せるはずもない。
 岱馳はかたくなに拒否している。最愛なひとを亡くしたんだ。そんな感情などない。
 しかし、梶原たちは執拗におしつけてくる。諍いになろうとも、拒みつづける。だが、体裁というものが大人、社会にもある。
 それと同じように、岱馳は会うだけは了承した。なぜなら、猫同伴ということで。

 

 岱馳は猫と出会って、2度目の症状ともいうべき状態をみた。朝だというのに起きないのだ。
「めし、ここおいとくぞ」ベランダを開けて、丸くなって眠っている猫に呼びかけても反応をしめさない。いつもなら、カーテンを開けたら、上目遣いでこちらをみるというのに。以前も同じだった。朝だというのに眠った状態をみたことが重なってしまい、それがどういうわけか頭から離れないのだ。
「夜遊びか」
 そんなことをしない猫だということはわかっている。だが、岱馳が目を離しているのは睡眠時と会社で働いているときだ。猫はなにをしているのかは、わからないし突き止めようともしない。こんなひ弱で間抜けそうな小さな猫にも、自由がある。それを満喫しているだけだろう。

 テレビをニュース番組に切り換えると、なにかの事件のニュースが報じられていた。
「またか、まるでこのまえのニュースとにている…」
 岱馳は驚愕した。

 真夜中の静寂が包むひらけた道の片隅で、雷鳴のごとく切り裂くような叫び声が辺りに響いた。
 駆けつける警官が見たその光景は、けっしてありはしない現象がそこには立ちこめていた。
 星空がきらめく夜空だというのに、その一帯は濃霧が包む。それはまるで悪どい犯行を覆い隠すかのように。そして濃霧は晴れていくと、霞みゆく靄が、ゆらゆらと揺らぎ、それはまるで何かがいた存在を思わせる。すると、のような煙は一瞬に消えた。
 地べたに人が倒れているのをみつける。警官はすぐさま近寄る。甲高い声からすると女性である。と、警官は思っていた。
「やはり女性だ」
 警官の耳は確かなものだ。しかし、警官が見たその目はなんといっていいか、不可解な現象だったことが脳裏にこびりつき、晴れようとしない。
 濃霧がこの女性を襲ったというのか。女性の身体はまるで、刃物で切り裂かれたかのような無数の傷があり、警官ひとりでは止血が不可能だった。
 警官は呆然となった。

 岱馳はテレビをつけ、朝食を食べながらニュースをみている。日課だ。すると、どこかで聞いたことがある名前が報じられた。
 藤村 葵、ピアニスト、死亡。
「あれ、この女のひと、たしか―」岱馳の脳裏に浮かんでくる記憶にその名はあった。杏那の交際していたヴァイオリニストを寝取った女だ。

 キャスターは状況や死因を説明している。
「何者かによって、切り裂かれたような痕跡。死因は刺殺かもしれない。しかし、刺し傷は全身にあり、それが出欠多量で亡くなったようです。これはひとの手による犯行なのか。もしくは以前、池袋周辺で起きた中辻 正明さんの死因と酷似しているため、その関係性があるかもしれない。この死因が似ていることで同じ犯人かもしれないと警察は慎重に調べている―」

 岱馳は、ほくそえんだ。「ざまーない、天罰だな」

 ベランダを覗くと、猫は丸くなって眠っていた。「めし、食べないのかな?」

 

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