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SF・ファンタジー・ホラー

cat 〜その想い〜 12

   

 ついに、新たな出会いの場へと、岱馳は梶原と明日香と紹介された女性で、バーへ入る。
 猫が入店できる店ではなかった。話がちがう、と抗議するも、梶原はむりやり猫の首でも引っ張るようにしてバーへ引きずり込む。
 相手の女性は、南 藍子(みなみ あいこ 24歳)OL。ちょっと派手な外見だが、性格はお淑やかな印象だ。
 酒気が帯び始めたころに、梶原と明日香は順に席を立ちトイレ行くといってそのまま消えた。どうやら岱馳は罠に嵌ったようだ。

 猫を預かった、とメールが送られてくる。今宵はもうふたりで過せと、ふざけたシナリオがあったようだ。
 岱馳は酒気よりも怒気で酔いなど醒めてしまった。
 そして、南をタクシーで送る。しかし、寄っていかないかと南は岱馳を誘う。
 岱馳は意外に積極的なこの女性に好印象は失われた。外見どおりの慣れたらガツガツくるタイプかもしれない。と踏んだ。だが、どうでもいい相手だ。しょせん、今宵の出会いは社交辞令。
 猫が心配なため、断って帰宅した。

 岱馳は、梶原に早く猫を返すよう要求する。梶原も、こんなにも猫に愛情があるとはしらなかった。

 後日、梶原がしつこく南との再会を要求してきた。もうこなったら直接断るしかない。このままではストーカーに進展しそうだ。そこまでの男でもない岱馳だが、ここは男らしく会って断る。

 しかし、その再会で、彼女はとんでもない過去を語る。

 

 耐え忍ばなければならない夜がきた。店は雰囲気ばっちりのバーだった。
 個室へとおされた。岱馳のほかに、梶原、明日香が同席している。相手の女性の四人でメンバーがそろった。
 梶原がとなりに座りテーブルを挟みむかいに明日香とその女性が座った。岱馳の目とその女性の目があう。人見知りではない。この人からはなにか異質な感情が込み上げる。杏那と初めて出会ったときの気持ちとはちがう。トキメクような胸の弾みではない。心の奥底に沈殿しているなにかが目を覚ます。どよめき、ざわめき、動揺といういいしれぬ魔物が息をひそめて顔をだそうとしている。泥沼の表面が波打つわけもない静寂が岱馳の心を脅かす。

 眼前の女性は脅威的なオーラを放っている。

 女性陣がカクテル、男性陣はビールを注文し改めてお調子者がその場を取り仕切り紹介をはじめる。たがいをしる最中、岱馳の頭のなかは何かと猫がよぎる。猫のことでいっぱいなのだ。
 猫がいない不安感。
 ここに猫がいないことの事実にむしょうに傷心していく。一秒ごとに擦り傷がひとつ増えていく。もう三十分も過ぎた。ハートに傷をつける箇所がないくらいギザギザになっていた。ペット不可のバーだ。
 この日も猫はついてきていた。行き先など猫は知る由もなく、勝手気ままについてくる。相変わらずどこまでも一緒についてくる。
「猫同伴だからな。だいじょうぶだ」岱馳は高をくくっていたが、そうでもない。

 見知らぬ女性があらわれるなり、岱馳たちから遠ざかり背をむけ丸くなっていたことに度肝を抜かれた。そんな態度を取る猫の胸中はいかに整理すればいいのか。
 どことなく嫉妬しているかのような態度。そのまま猫は外で待っていた。
「猫が入れる店じゃないのか?」岱馳は梶原に詰め寄る。
「しかたないだろ。そんな店、都内にはない。猫カフェくらいだ」
 岱馳は騙されたことに腹が立った。しかし、猫はそっぽをむいたまま、主に帰ろうとすがることもなかった。待っているよ、そういっているようだった。

 猫を気にしながらも同僚が行くぞ、という声に岱馳はうなずいた。苦渋の顔を猫にむけながら、そのままにして店内へはいった。
 薄暗い色合いはどことなく幻想的で、煙幕に包まれたかのような鼓動の高鳴りが響き、ぎこちなさをうける挙動性を与える。こういう店は初めてきたからかもしれない。嗅いだことのない甘いような清々しいような芳醇な香りは大人の芳香。そこにジャズの音楽がより一層の雰囲気を演出ししている。まちがいだったとしても、今宵ここで出会った男女は心が交叉し恋が生まれるような期待感に導かれる。錯覚だったとしても夢心地のひと時がこのバーにはある。その入り口は魅惑の世界へとこの場にいる者たちに通常では異なった感情が解放され心の鍵が扉を開きやすくしていた。

 まさに大人の出会いの場だ。

「紹介するね。この人は南 藍子(みなみ あいこ 24歳)さん」
 南さんは見た目とちがい、優しいおしとやかな態度で、そして柔らかい口調で話す女性だった。見た目はお水関係の職にでも就いていそうな外見だ。茶髪で派手な化粧をしている。着ている服も赤や金のラメがはいっているワンピース。たるみのない華奢でいながら引き締まった身体。年齢は岱馳より三つくらい下とかいっていたがとてもそうは見えない。年上に見えそうなほどの大人の色気を放っていた。老けているわけではない。艶感が大人っぽさを醸しだしていた。
「なにかきけよ」
 梶原が、岱馳の横腹をひじで突きながらつぶやいた。
「そんなこといっても、ムリだよ。興味ねんだから」小声で返した。
「なにいってんだ。話さなけりゃ、打ち解けないだろ。興味はそこからはじまるもんだ。ひとつの言葉がつぎの道をひらく」またおなじようにひじで腹をつく。
「わかったよ」笑顔を取り繕い訪ねた。「南さんは職業なにをしてらっしゃるんですか」流暢に切りだした。
 梶原は「よくやったぞ」といわんばかりに二、三度うなずいていた。
「えっ、あ、OLです」言葉を詰らせながら南さんも流暢にこたえた。でも目をあわさず照れ笑い混じりにこたえた。
 となりにいる明日香がにやにやしながらいまの初対面同士のやりとりをながめていた。

 出会いのはじまりなんてこんな感じだ。性格のいい部分の一部が表面化し長所のみを繕い相手に見せる。相手に失礼がない態度を取るのが最善最良社会人だろう。
 これが社会の表面と同じなのだ。まだ見えないその人の外見なのだ。

 

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