幻創文芸文庫 (β)

小説好きの創作小説を無料配信*スマホ対応

ラブストーリー

うみのおと 2

   

フィルムに収められた魂。
僅か二十数分の愛。

女子中学生と中学教師。
一冬の旅。

急な雨に遇い、びしょ濡れになった恭子と「先生」は、民宿へと駆け込んだ。
冬の雨は冷たく、とりあえず温まらなければ風邪を引く。
二人は風呂に湯を張り、交代で温まる事にした。

 

 ピー……っと遠くで微かな音がする。風呂に湯が張られたと知らせるブザー音だ。

「先生、お湯、入りました」
「鈴木さん先にはいりなさい、僕は後でいい」
「後でいいです、先生さきに入ってください」
「キミが先に入りなさい、びしょ濡れだよ、風邪をひく」
「平気です」

 先生は雨に濡れた恭子を心配し、先に入れと言ったが、恭子はそうしたくなかった。濡れて寒かったのはさっきまでの話だ、今はもう寒くない。ストーブに火が点り、先生もここにいる。震えは止まった。しかし先生はダメだと首を振った。自分の我侭な旅に、親に内緒でつき合わせているのだ、もしもの事があったら困ると言う。

「キミになにかあったらご両親になんて言い訳したらいいと思う? いいから入って」
「……はい」

 親の事を言い出されては頷かない訳にはいかない。先生は大人で教師で、自分はその教え子だ。もしも自分になにかあったら、理由がなんであれ、責められるのは先生なのだ。それが歯痒かった。なぜ自分はまだ十五歳なのだろう? あと十歳上であったら、誰にも先生を悪くなど言わせないのに、自分が子どもであるばかりに、責めはすべて先生に向けられてしまう。納得はしたくないが、頷くしかない。
 じゃあお先にいただきますと頭を下げ、恭子は旅行鞄のチャックを開けた。中には僅かな着替えが収められている。下着と寝巻き代わりのジャージを取り出し、薄桃色のバスタオルとともに胸に抱えて風呂場へ向かう。カラカラと、小さな音を立てて脱衣所の引き戸を開けると、質素で整然とした脱衣所には、洗面と、扉のない棚があり、脱いだ衣服を置く大きな籠が置いてある。ココヤシ繊維で出来た足拭きマットは、昔の映画で見た事がある銭湯やサウナなどに置いてあるそれだ。
 肌に張り付いて脱ぎにくい濡れたシャツを引き剥がして竹籠の中に落した恭子は、そっとそのマットに足を乗せてみた。乾燥して少しざらついたココヤシの繊維が足の裏に心地いい。キュッキュッと足踏みをするように力を入れて踏んでいると、懐かしいような切ないような、不思議な気持ちになった。
 先生と旅をするようになってもう数日経つが、風呂に入るのが一番緊張する。万が一にも先生が覗きに来たりする事はないとわかっていても、扉の向こうに先生がいるんだと思うだけで心臓は鼓動を早めた。

 

-ラブストーリー

うみのおと<全5話> 第1話第2話第3話第4話第5話

コメントを残す

おすすめ作品

アストラジルド~亡国を継ぐ者~アグランド編 第34話「それでも――――」

   2017/11/20

探偵の眼・御影解宗の推理 【嘆きの双子】15

   2017/11/20

ロボット育児日記39

   2017/11/17

忠実な部下たち

   2017/11/17

モモヨ文具店 開店中<36> ~帰り行く者~

   2017/11/16