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ハートフル

モモヨ文具店 開店中<11> 〜モモヨさんと幽霊少女〜

   2015年6月12日  

これは夢?それとも幻?
今回はなんと幽霊少女の宵子さんがお客さん。
この宵子さん、漱石の原稿用紙をうちに買いに来たんだけれど当然ないわけで。
そしたら突然消えちゃったの。
でも本当の目的は別のところにあったみたいで――
『モモヨさんと幽霊少女』へどうぞいらっしゃい!

 

モモヨさんと幽霊少女

 開け放した引き戸から暑さの溶けた風が流れ込んでくる。
 アスファルトに照りつける日が、この頃じりじりと強くなってきた。
 作業台で文具カタログをめくる百代さんが、湯飲みに入ったほうじ茶をすする。
 熱い。
(そろそろ冷たい麦茶に切りかえるか……)
 うん、そうしようと決めたときだった。
「ごめんください」
 鈴の音のような声がした。
 店先に濃い影になった人が百代さんを窺っている。
 入っていいものかどうか迷っている風だった。
「あ、はい。どうぞいらっしゃい」
 コツッと一歩店内に入ってきた客は、ここいらでは見ないほど美しい少女だった。近頃のやせぎすな少女たちとは違い、ふっくらとしている。だがけっして太りすぎではない。背中まで伸ばした黒髪を赤いバレッタでひとまとめにしている。サマーニットを上手に着こなした少女の頬はまだうら若いと見えて頬紅がさっと一塗りだけ。店内を見渡す眼差しは溌剌として、澄んでいた。
「なにをお探しですか」
「原稿用紙を……」
「でしたらこちらです」
 三つの列の中央、レジ付近に案内する。
 B4が半分に折りたたまれた茶色いスタンダードな四百字詰めの原稿用紙から、A4そのままの大きさの切り取り式。二百文字が一枚となっている物、論文を書くのにちょうどいい八百字づめに六百字づめのノートタイプ……
 近所に大量消費するお客が住んでいるので、原稿用紙は絶対に切らさずに置いてあった。今もストックは五十部はある。
 だが、少女は浮かない顔だった。ノートをぱらぱらとめくると、棚に戻してしまう。原稿用紙ブースを一瞥すると、肩を揺らした。ため息をついたのだ。
「あら、お気に入りがありませんでした? お取り寄せもできますよ」
「あ、だったら……漱石が使っていた原稿用紙って取り寄せできますか?」
 百代さんは一瞬だけ固まった。少女は迷子になった子どものように泣き出しそうだった。
「漱石って、あの夏目漱石? の、原稿用紙?」
「はい。兄が使っていて、買って来てくれないかと頼まれているんです……」
 むむむと百代さんは唸った。天井のシミをじっと見つめながら思案する。
 夏目漱石が使っていた原稿用紙は都内でしか売ってない。それにどの原稿用紙のことを言っているのかも分からない。(漱石が使っていた原稿用紙はいくつかあるはずだ)しかし分かったところで、ツテがないのだから取り寄せようがない。いちお客として送料込みで取り寄せるしか方法がない。
(ここはひとつ、お客さんに取り寄せてもらうのが一番手っ取り早いか……)
「あの、」
 隣にいた少女を見やると声を失った。

 

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