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SF・ファンタジー・ホラー

cat 〜その想い〜 13

   

南 藍子は淡々と自分のことを語りはじめた。それは悲惨ともいうべき結末の恋愛をしていた。
 同じ会社の上司である神田 輝樹、30歳に弄ばれたということだった。この若さで課長にまでなると、どれだけの女を自由気ままに選んでアクセサリー感覚でいくつも所有していた。
 彼女はそのひとつだった。一番ならまだしも、これが四番という順位だった。
 ハートを切り刻まれるようなことを課長は言い放ち、別れをいわれた。
 南はもう立ち直れないほどに、その男を恨むこともできずに泣き崩れた。

 梶原や明日香と再会する。大学時代の後輩でもあった南は、一枚の写真をみた。それは岱馳が写っていたものだ。ひと目惚れ。
 その感情があったから、先日のバーでの会合が開催された。
 そんないきさつなど知る由もない岱馳には関係がなかった。恋の発展も望んでいない。

 ついにその片想いを断る決意をした。
 しかし断ると、南は自分の美貌に自信があり、プライドもあるためか、いくら弄ばれたとはいえあくまでそれは傲慢な男が相手だったからだ。
 一般的には、上の中、上くらいには置かれる美人だ。そんな相手を恋人を失った岱馳がいつまでも引きずっていることを批判する。

 罵声飛び交う両者の恋愛感。そして、南の一方的な片想いは、終結するのだろうか。

 

 南 藍子は以前勤めていた会社で“ある男性”と交際していた。梶原たちと出会うまえにはもう別れていたが、その顔色は灰色のように暗かったという。
 辛く酷い恋だった。
 真剣になっていたせいでその裏切りに傷ついた。南の世界観、恋愛感を根底から覆す相手でもあった。

 神田 輝樹(かんだ てるき)。その会社の上司だ。30歳の若さで課長にまで昇り詰めた切れ者のやり手だった。だがほかの面でも“ヤリ手”だったのが有名で、その事実を南さんがしったのは別れるときだった。
 独身、30歳で課長。高級マンションに住み、ベンツにポルシェを所有していた。同世代の男たちは誰しもがうらやんでいた。
 課長は南さんを食事に誘い、その夜そのまま彼女までいただいた。彼女にとっては想いがつうじて夢のような一夜のはずだった。人生の崩落を味わう結果になろうとは、この幸福の渦中にいるベッドのなかでは知る由もなかった。一方的に「愛している」と彼女は何回も意中の男性にささやきかけていた。が、彼は微笑むだけだった。ベッドのなかで抱きしめられつづければその微笑むというのは「ぼくも愛しているよ」とこたえてくれたとかんちがいしてもしかたがない。しかも疑惑を抱かせないために頭を撫でるというかすかな接触をするだけで、女性に安心感を与えてしまう。女性の真相心理を巧みに手玉に取る“ヤリ手”ならでの手法だろう。
 そんな男に騙される女のほうが間抜けではあるが、女が求めるものを与えることで信じさせてしまう魔力をその男は獲得している。そしてその犠牲となった女は簡潔にいうところ泣き寝入りしかない。
 南さんはそんなこととはしらずなおも彼の腕のなかで「愛している」を反芻していた。そして最後に死語とでもいうべきひと言があった。
「わたしたちしあわせになろうね」
 神田は口ごもり、微笑みながら微妙な態度と表情をみせ「う、うん」と、うなずくだけだった。
 そのときはその反応だけで十分に心に染み込むような潤いを彼女に与えてくれた。二人の関係は彼から一方的に電話でひと言「今夜うちにきてくれ」とか「ホテル行こう」と、誘われるだけで南さんが誘っても「きょうは残業」、「接待」、「部下とのみにいく」などといって彼女からの要望は拒否された。
 神田からの誘いは従順になってしまう。
「やっと会える」その気持ちが膨張してしまう。
 二人の関係に一度もデートらしいデートはしていないことに気づく。そんな心ない虚無な日々がつづいた南さんは、沸々と心の奥底から込み上げる不安に侵食されていた。デートといえるのは最初の一度だけだったかもしれない。いまはもう身体だけの関係だと気づいた彼女は問い詰めた。
「どういう関係なの、どう思ってあたしと一緒にいるの?」
 神田の反応は稀薄なものだった。
「なにをいいだすんだ。いわなくてもわかるだろ、普通さ」
 愕然となる。それいじょうなにもこたえてくれないその背中をいくらにらんでも、感情が行き場を失い暴発しそうだった。
 自分の愛する気持ちと不安が少しずつ顔をだす。その感情にさいなまれながら、どうしても前者を選択してしまい彼のことを信じて待つことに耐えた。
 つながりは、まだあるからだ。

 

-SF・ファンタジー・ホラー


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