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綾乃さん 第四回 遺書

   

私は約束通り通夜の前日に四国の茜病院に佐藤さんを訪ねた。

そこで手渡された綾乃さんからの手紙にはお世話なった者への感謝と共に、彼女の息子、智樹さんへの気持ちが切々と綴られていた。

 「自分が犯した過ちが原因で親権を取られてしまったが、会いたくて会いたくて何度も会いに行ったがかなわなかった。
 でも、最後に『自分は人に迷惑をかけずに生きてきた』と伝えてほしい。」

手紙はそう終わっていた。

佐藤さんは親権という法律の壁をなげき、私は返す言葉がなかった。

 

第四章 遺書

翌日の午後4時過ぎ、私は茜病院に到着した。

「いやいや、山口さん、遠いところをどうも。」

事前に連絡しておいたので、玄関には理事長の佐藤さんが待っていてくれた。

「相変わらずでしょう。静かなもんです。」

本四連絡橋の完成で、四国各県は全般的に潤っているが、全てがそうとは限らない。この地がその典型的なものである。町に人影がまばらで、当然、病院の待合室にも殆ど人気がなかった。

「取り残されたしまったってことですね。ははは。」

佐藤さんは仕方がないといった表情で笑い飛ばしていた。

看護師長の上田さんに案内され、私は集会室で彼女と対面した。
明日が通夜なので、既に祭壇は飾り付けられていた。

「きれいなお顔ですよ。」

上田さんが棺の小窓を開けてくれた。最後まで志を違えず生き抜いた満足した安らかな顔。今にも「困っている人の力になりなさい」と声を掛けてくれるような感じがする。しかし、頬の冷たさが、それが叶わぬ願いであることを教えてくれる。

「山口さん、理事長室にどうぞ。」

お別れの挨拶を済ませた私は上田さんに連れられ集会室を後にするが、弔問に訪れる人が絶えない。

「松田さんの果たしてきた役割がどれたけ大きかったか、これを見れば分かります。」

私も黙って頷く。

 

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