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幻影草双紙76〜人工知能(前篇)〜

   

『われはロボット』へのオマージュです。

 

 その日、宇宙探査局の大会議室は興奮の渦に包まれていた。
 正面の壁には、〈小惑星有人探査報告会〉の幕がある。
 つまり、小惑星探査から帰った探検隊員の報告会が開かれていたのである。
 最初の帰還報告は、地球周回軌道にある宇宙ステーションに着いたときに中継で行われていた。
 だがやはり、地上での帰還報告会の方が、直に探検隊員たちを見た方が、人々は興奮するのであった。
 檀上には、宇宙船に乗って探査に行った探検隊員たち、それに宇宙探査局の局長が並んでいる。
 大会議室は新聞記者で埋め尽くされていた。
 探検隊員が、新聞記者の質問に答えるのである。
 探検隊員がナマで答える最長距離の宇宙探査の実態は、人々に感動を与えるものであった。
 そして、探検隊員は、今回の探査の成果を取り出した。
 黄金の塊である。
 会場からは、大きなどよめきが湧きあがったのであった。

 探検隊員の質疑応答が一段落すると、新聞記者たちは、宇宙探査局の局長に質問を浴びせかけた。
 探検隊員に劣らず、宇宙探査局の局長も、この席での英雄であった。
 なにしろ、火星よりもはるか遠方にある小惑星帯まで人を送り込む、というプロジェクトである。
 人類史上最大、最難関のプロジェクトなのだ。
 それを立案、計画し、成功へ導いたのである。
 さまざまな困難、スキャンダルを克服して成功させた手腕は、世界中の経営者の鑑であった。
 困難やスキャンダルを冷酷に対処した態度から、局長は心を持たないロボットみたいだ、と噂されたほどである。
 心臓は鉄で出来ていて、頭の中は人工知能、というわけである。
 しかしながら、今ここで新聞記者の質問に答える局長は、さすがに嬉しそうであった。
 やはり、局長も人の子なのであろう。
 宇宙探査局の局長は、ヘンリー黒川という名前である。

 この帰還報告会を、苦々しく思っている者が2人いた。
 1人は、ロバート・スミスという名前である。
 彼は、この報告会に出ていない。
 オハイオ州の別荘で、苦々しく思いながらテレビを見ていたのである。
 もう1人は、白河幸二という、宇宙探査局の特別研究員である。
 彼は、宇宙探査局の一員として、この報告会に出ていた。
 しかし、心の中では苦々しく思っていたのである。

 

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