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歴史・時代

ハヤブサ王 第4章 〜宿命(5)

   

 大王からイワノヒメを連れ戻すように命令されたワケノミコは、すぐさま彼女のもとへ。しかし、彼女の心はすでに大王から離れていた。
 ワケノミコは再三の説得にあたるが、イワノヒメは首を縦に振らない。
 そんななか、彼女のもとに大王の母であるナカヒメが訪れて…。
 狂った歯車は、もはや誰にも止められない。すべては、宿命なのだ!

 

 ワケノミコが、紀の国(和歌山)へ出立する当日、難波津の沖合いにイワノヒメの乗った船が帰って来たと知らせが入った。
 大王は、すぐさまワケノミコに木簡を持たせて、難波の港まで迎えに行かせた。
 ワケノミコは港で待っていたのだが、イワノヒメを乗せた船は、船縁につけた鈴を鳴らしながら彼の目の前を悠然と通り過ぎ、川を遡り始めた。慌てたワケノミコは、直ちに小舟で乗り出して、イワノヒメの船に乗り移った。
 船上には、イワノヒメの姿は見受けられなかった。侍女のクニヨリヒメに訊くと、船内にいると言う。
「イワノヒメ様は、このまま川を遡られ、山背から大和へ向われる予定です」
「宮には、お戻りになられないのですか?」
 クニヨリヒメは、首を振った。
「そのおつもりはないようです」
 ワケノミコは、大王にイワノヒメのことを侮言した者を捕まえ、処分したこと、どうしても戻ってきてもらいたいとのこと、そして大王から木簡を預かってきたことを、イワノヒメに伝えて欲しいと懇願した。
 クニヨリヒメは、
「イワノヒメは、大変な悲しみようです。あれほど信じて、大王様にお仕えしていきたのに、それを大王様は馬鹿な小娘の話を真に受けられたのでしょう。私でも不愉快です。不愉快ですが、木簡はお預かりしますので。しばらくお待ちください」
 と木簡を受け取って、船内に入った。船内に入り、イワノヒメにワケノミコの言葉と大王から預かったという木簡を渡した。
 イワノヒメは、木簡を読んで、「まあ、いまさら…」と鼻で笑った。
 木簡には、子どもたちが心配しているだの、后として自覚が足りないだのと書かれたあった。
 そして、歌が一首そえられていた。

 難波人 鈴船取らせ 腰なづみ その船取らせ 大御船取れ
 (難波の船人よ、鈴船の綱を取られよ、腰まで水に浸かって、その船を引け、大御船を引け)

「やっぱり、私を悪くおっしゃるのね…」と、イワノヒメは呟いた、「クニヨリヒメ、ワケノミコにこれを渡しなさい。大王様のために、紀の国で採ってきたものですと」
 クニヨリヒメは、イワノヒメの言葉を伝えて、ワケノミコに柏の葉を渡した。
「これは一体…」
 と、聞き返したが、クニヨリも、さあと首を傾げた。
「兎も角、イワノヒメ様は宮にお戻りになるつもりないようですから」
 ワケノミコは、柏を手に、虚しく宮に戻るしかなかった。

 

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