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ラブストーリー

うみのおと 4

   

フィルムに収められた魂。
僅か二十数分の愛。

女子中学生と中学教師。
一冬の旅。

二人の旅は誰にも理解されず、ただ厭らしいと罵られる。
次第に追い詰められていく恭子は、やがて部屋に引き篭もり、誰とも口を利かなくなっていった。

 

「あそこでなにをしていたの?」
「映画を撮ってました」
「映画? なんの?」
「世界、だと思います……」

 小さな机と椅子が措いてあるだけの、三畳ほどしかない狭い部屋で、臨床心理士の女性は、根気強く問いかける。女性は少女の中にあるなにかを探し出そうとした。だがいっこうにそれは見えてこない。
 親子ほども歳の離れた教師と、旅に出たのはなぜかと考えた時、父親の不在が挙げられる。少女の父親は少女が幼い頃から単身赴任で、外国にいた。時々は帰ってくるし、少女も母親と共に会いに行く事もあったが、それだけでは父親との距離は埋められなかっただろう。父親の不在。それが少女をこの旅に向かわせた理由かもしれないが、そうと決め付けるにはやや希薄である。

「和田先生は、なぜあなたを誘ったのかしら?」
「わかりません」
「先生にはなんと言われたの?」
「冬休み、撮影旅行に出るから、一緒に来ないかと言われました」
「それから?」
「それだけです」
「それでついて行ったの?」
「そうです」
「それはなぜ?」
「一緒に来ないかと言われたからです」

 何度訊ねても、そこからは堂々巡りだった。なにか他人に言えない事情を隠しているのかとも思ったが、そうではなさそうだ。少女は、本当に、呼ばれたからついて行ったのだ。
 だがなぜ――――?

「これは、あなたの持ち物かしら? それとも和田先生の?」

 臨床心理士は少女に一台のハンディカムビデオを見せた。それはおそらく少女を連れ回していた教師の持ち物だろうとされたが、確実な証拠がないため、一応保留にされていたモノだ。聞いても明確な返事は聞けまいと思いながら訊ねた。だが少女は目の色を変え、それは自分の物だと答えた。

「私のです! 返してください!」

 机の上におかれたハンディカムを、少女はひったくるように奪い、その胸に抱えた。止める暇もなかった。

「待って、それは証拠品なの、まだ返す訳には……」
「私のです、私のです! 私のですっ!」
「恭子ちゃん……」
「わたしのです」

 少女はそこから、他の言葉は一言も喋らなくなった。ただ私のだと繰り返し、ハンディカムを抱え込む。臨床心理士は返すようにとの説得を諦め、そのハンディカムの中に入っていたテープを見せた。

「中味はここよ」

 それを見た少女は返してくださいと叫んだ。女性はそのテープをすばやく少女の手の届かない距離へと引き離す。

「これを返して欲しいのなら、質問に答えなさい」
「質問?」
「ええ、簡単な質問よ……あなたと和田先生の関係は? なぜ、二人きりで旅に出たの? 二人でなにをしていたの?」

 

-ラブストーリー

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