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SF・ファンタジー・ホラー

cat 〜その想い〜 15

   

 岱馳は自室で眠りにつくなか、静かに忍び寄る影がいるのを感じた。
 霊感もない岱馳がなにを感知したのか、寝ぼけた頭と暗闇の視界では判断がつかなかったが、じょじょにそれは輪郭がはっきりと目が慣れてくる。
 すると、人間だった。
 そして、一喝する岱馳。飛びつくよにその人影に蹴りを喰らわした。
 電気を点けてその正体を見極めた。岱馳はみたことがない人間だった。と最初は思ったが、記憶のどこかにその存在と照合できた。
「おまえ!」
 見覚えがあった。その顔、まさか―。

 だが、そこからはじまる意外な運命が、影のなかで人生を歩んでいた岱馳。
 猫とともに、その活躍によって大々的にニュースになって一躍ヒーローとアイドルになった。

 運命はどのようにして、スポットを浴びさせるのか、意外性がありすぎて、岱馳のようなタイプの性分では恥ずかしくなってしまうだけだった。
 しかし、気分がいい、と猫とともに喜悦している。

 

 それは静かに忍び寄ってきた。
 岱馳はすっかり眠りにつき、静まりかえった室内には、かすかな音もしない。そのかすかな音といえば岱馳本人の寝息だけだろう。あとはきき慣れた家電製品の冷蔵庫や空気洗浄器の音だ。
 ひじょうに慣れた日常の音だ。心地よささえ感じてしまう。しかし、その慣れた音色の和音が密集するなか、岱馳の聴覚に違和感を感知した。
 不協和音が混じっている。いつのまにかこの部屋に“だれかいる”。
 何時なのかわからないが、部屋は真っ暗だ。夜中なのはわかる。朝方ではない。暗やみのなかで物音がする。エクソシストのような現象なら、恐怖よりも寒気がする。霊感なんて岱馳にはそなわっていない感性だ。
 気のせいだと、思ってもいいはずだが、そのかすかな物音は無意識のなか、岱馳の聴覚をざわめかせた。日常の家電製品などの音色とは異なり、異質な分子が交じり合っている。その音との波長がずれたことに、これいじょう無視しつづけて安眠できるわけがない。眠りを妨げられる不快な原因をつくりだした元凶を、この目で確認する意識が芽生える。

 寝ぼけ眼で視界もぼやけ、しばらくうっすらと目を開けていたが、ある程度暗やみにも目が慣れ視点が定まってきたところで脳髄が凍りついた。全身の鳥肌が立つ。サッカー観戦で応援チームが点を決めたときの大歓声のウェーブをするように逆立ち、心身ともに警戒への鍵がまわされ硬直した。これだけ目覚めがよければ早起きが苦にならないだろう。
 夜行性で猫の目のようにパッと開き、その異物をにらみつけるように敵意の眼光を光らせ標的の死角に投げていた。暗やみのなかでうごめく影がゆらりゆらりと揺れている。最初は寝ぼけていたから幽霊かとおもった。それはそれで恐い。実体がないぶん危害はないが精神はトラウマに陥るだろう。岱馳の場合、気絶することを覚悟するだろう。考えるだけでゾッとする話を想像するのはいささか安易であった。
 暗やみに目が慣れはじめその影がはっきりしてきた。輪郭がぼんやりとしてきた。それはまちがいなく人間だと認識できた。その瞬間、防衛本能が働きその影に一喝した。
「だれだ!」
 意外にも頭のなかは冷静で状況を瞬時に把握した。布団から飛び起き、黒い影に飛び蹴りをいれ吹っ飛ばした。
 人影はドスンッと大きな音をたて倒れた。そのすきに部屋の灯りをつけた。その人物の顔がはっきりとわかった。顔は初めてみる、顔ではない。見覚えがある程度だ。しかもついさっきあったような気もする。
 禿げ上がった頭、中年風でジャージを着ていた。それがいつなのかは定かではない。わからない。どこで出会っていたのか。わからない―。
 ズバババババッと稲妻が頭に落ちたような衝撃が鮮明に走る。その人物は昼間、新聞の勧誘に部屋におとずれたあの男ではないか。中年の禿げ上がった頭のジャージスタイルでセールスにたずねてきたあの不愉快な男だ。
「そうか泥棒だったのか。そのためにこの部屋の調査をしに勧誘を装い、部屋の内部を覗いていたのか。どうりで挙動不審な行動をしていたわけだ」

 

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