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SF・ファンタジー・ホラー

漂着のカルネアデス〜中編〜

   

漂着のカルネアデスの中編。前編を読んでいただくことをお勧めします

 

二章 『再生』

 
 僕が目覚めると、そこは僕の部屋のベットの上だった、血なまぐさい香りが部屋に残るものの、部屋は綺麗に片付けれられ、見慣れないスタンドがベットの横に立てられていた、僕の血液ストックが入ったパックが三つほどぶら下げられていて、その管の先が僕に突き刺さっていた。
 かなりの血を流したらしい、貧血特有のけだるさに悩まされながら、枕元に置いてあったメモ用紙を掴む。
 ゼタからだろうか、そう思った、けど違った。
『もう、二度とこんなことしないでください』
 僕はその筆跡から彼女だとわかった。
 僕もする気はないよ、そうメモに書き残し、枕元に置く。
 僕は外を見る、夕暮れ時で、血のように真っ赤な陽の光が部屋を染め上げていた。
「どれくらい眠っていたんだろうか」
 そう問いかけても言葉を返す人間はいない。
 そして、その時だった。
 僕の家のチャイムが鳴った。
 基本的にゼタはチャイムに出ないし、僕も出るなと言われている。
 だから僕は自分の部屋から玄関先に誰が来ているのかを見に行った。
 スタンドに体重を預け、体を引きずるようへ窓辺に、そして見下ろすとそこには。
優理がいた。
 いつものひょうひょうとした彼女らしくない、困ったような表情を浮かべ、ドアを凝視している。
 僕を訪ねてきたのだろうか。
 だとしたら、見つかるのはまずい、そう僕は思い。ベットに戻った。
 体が大急ぎで血を作っているのだろう、僕の体はこの少しの運動で強い疲労感を訴え、あっというまに眠りについた。

*  *

 次の日から僕らは文通をすることにした。こんなに近くにいる2人なのに、まるで遠く異国へと分かたれてしまった恋人のようにメッセージを送りあう日々が続く。
 そしてどうやら彼女は、僕の意識がない時にしか行動できないようなので、僕らの文通は、僕が眠る前にメッセージを残し、僕が目覚める前に彼女が残すというサイクルになっていた。
 そして僕らは日付や時間間隔も忘れてそれに没頭していく。

『ひさしぶり。会えてうれしいよ。僕のことを覚えていてくれてうれしい。
 少し言葉遣いが大人びたね。君は13歳で時を止めたから精神状態もそのままなのかと思いました。
 そう言えばこの前のメッセージで君は僕に謝っていたけど、僕の方こそ謝らないといけないことがあります。
 君の名前を思い出せないんだ。
 てっきり君が食べてしまったのだと思ってたけど、そうじゃなさそうだね。
 僕は元気です、手始めに近況を語ろうかと思ったけど。君は僕の記憶を食べて大体知っていると思うから。あえて語りません。
 それより、これからどうするかを考えていきたいと思います。例えば君が生前にしたいと言っていたこと、僕が見て記憶にすれば君はいつか僕の記憶を食べてそれを見ることができるでしょ?
 だから、雪を見に行くとか、海を見に行くとか何か要望があれば僕がきくよ。そのあたりを詳しく話し合いたいと思います』

 そして本格的に彼女が目覚めたその日から、ゼタは毎日家にいるようになった。
 最終調整と言って、ぼくに様々な処置を施すために、準備が必要らしい、用途不明の大型の機械を搬送したり、薬品を合成したり、忙しそうにしている。
 そして僕への投薬や計測がより多くなった、外科的な処置まで行うようになった。
 けど内容についてはまったくきかされていない。
 まぁ別にどうでもいい、そう僕は思う。興味もないし。
 僕はもう消える存在だから。
 そうゼタも思ったのか、急に僕への態度がそっけなくなった。
 前まではおもちゃやゲームかなにかに注ぐような加虐的な関心はあったくせに、今では物を見るような目で僕を見る。
 けどそれでいいと僕は思った。
 僕もそれでいい。もうこの命の価値は決まり、貰い手も決まった、僕に何一つ不安はなく思い残すこともない、あとはゼタの処置が完了するのを待つだけ、簡単なことだった。
 だって僕の人生の心残りはあの日だけだから、あの日死にたくないと泣きじゃくっているあの少女に対してこの命をあげたいと思い、それができなかった心残りがあるだけだから。
 だから今の今までずっと思っていた、この命が彼女に与えられるならなんでもすると、そう思っていたのは偽りじゃないから。
 そして次の日の朝も彼女からメッセージが届いた。

『私のこと思い出してくれて、わかってくれてありがとう。すごくホッとしました。
 というか、なぜか文章の上だと敬語を使ってしまうね、なんだかおもしろい。
 それにしても、日記の中に出てくる記憶を食べちゃうって、面白い表現だよね。私が妖怪みたいだよ。
 でも実際食べてるに等しいか。だって彼我の記憶は減るけど。おかげで私の知識量は増えるから食べてるのと変わらないものね。
 それに付随して説明、私が13歳の少女にしては大人びている理由なんだけど。
 あなたの18年の記憶を食べて、そこからいろいろ学んで精神年齢が追い付きつつあるってことになると思う。今はたぶん16歳くらいかな。後輩だよ。かわいがってね。
 私の見たかったもの覚えててくれたんだね、うれしい。でも今の季節に雪は無理があると思うので、いけるとしたら海に行きたいな。
 あ、水族館なんてどう? デートしたいな』
 水族館は確かにあるが、小さいしあまり楽しめなかった記憶がある。
 それにデートって言ったってたぶん、僕が見て、その記憶を後でこの子が食べるのだろう。はたしてそれはデートとしてなりたつのか。

 僕はその疑問点も含めて返事を書いた。

 

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