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綾乃さん 第五回 仁科智樹

   

私は葬儀を終えて東京に戻ると、家族問題に詳しい弁護士から「様々なケースがあるから、焦らずによく話し合うべき」とアドバイスをもらった。
私が手紙を出してしばらく経った3月中旬、ようやく仁科さんを会うことができたが、アドバイスされた通り、仁科さんの気持ちは複雑だった。
私は仁科さんに母親が過ごした場所を案内することにしたが、そこで思いがけず、綾乃さんと一緒に働いたことがある女性医師と会うことができた。
彼女は綾乃との思い出を語るが、仁科さんはなぜ自分に会いに来てくれなかったのかと、割り切れぬ思いを訴える。
かみ合わぬ中、女性医師が話してくれたことは、これ以上の理不尽はないというものだった・・

 

第5章 仁科智樹

葬儀も終わり一週間ぶりに東京に帰ると、講演会を含め仕事はかなり溜まっていた。

「先生、今日のスケジュールはこの通りです。明日は仙台で講演会がありますから・・・」

いつものことながらスタッフの高木さんたちの段取りのお蔭で、私はクライアント等に迷惑をかけることなく仕事に戻ることができた。

3月初め、私は講演会のため大阪にいた。

「もしもし佐藤ですが・・」

茜病院の佐藤さんからの電話だった。

「どうも。」
「出先まで電話で追いかけてすみません。いや、気になったものですから。」

仁科智樹さんの件である。私は東京に帰ると直ぐに手紙を出しておいたが、まだ返事がなかった。

「構いませんよ。私も気になっているのですが、まだ連絡がありません。」
「そうですか。どうなんでしょうかね、やはり、いろいろ考えているのでしょうか?」
「そうだと思いますよ。いくら私たちが『お母さんはいい人で、あなたのことをいつも思っていました。』と手紙に書いても、一緒に暮らしていた父親や家族がどのように伝えていたか、分りませんからね。気長に待ちましょう。」
「そうですね。分りました。それではまた。」

佐藤さんに「気長に待ちましょう」と言ったが、それはむしろ自分自身へのものだった。

高校生の時、綾乃さんから離婚のことを聞かされた、あのやるせない気持ち。弁護士としてではなく、お世話になった人の気持ちをなんとか叶えてあげたいという気持ちが、自分自身を急かせていた。それで、それを戒めるために自分自身に言い聞かせていたのだ。

 

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