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歴史・時代

ハヤブサ王 第5章 〜隼は天に上り飛び翔る(1)

   

 イワノヒメが亡くなって一年あまり、大王は政務を投げ出して悲嘆にくれていた。代わりに、政治は母のナカヒメが執ることに。ナカヒメは、宮を豪華にしたり、夫のために大規模な墓を造ったりと、民を虐げる政策を次から次へと打ち出していく。
 一方、后となったヤタノヒメミコは、大王にも相手にされないという寂しい夜を送っていた。
 ワケノミコ、ヤタノヒメミコ、メトリノヒメミコの三人の行く末には如何なる結末が?
 ついに最終章が幕を開ける!

 

 夕刻になると幾分涼しくなるが、それでも動いているとじわりと汗が滲み出てくる。
 ヤタノヒメミコは、額に薄っすらと汗を浮かべながら大王を捜していた。大王は、最近この時刻になると、ふいにどこかに消えてしまうのだ。
 ヤタは、采女(ウネメ:大王の侍女)の一人をつかまえた。
 采女は、首を捻った。
「さあ、見ておりませんが…」
「そう…」
「何かございますか、后(キサキ)様?」
「えっ、いえ、別に、ありがとう」
 ヤタノヒメミコは、慌ててその場を離れた。
 ―― 后 ――
 何度呼ばれても、やっぱりしっくりとこない。もう1年近く経つというのに、未だに「后」と呼ばれると、心の奥がずきりと痛くなる。
(罪悪感…かしら…)
 先の后であったイワノヒメを追い出し、死に追い遣った。決してヤタノヒメミコのせいではないのだが、彼女の心には雨雲の如く重く圧し掛かっている。
(群臣や侍女たちだって、私を軽蔑している)
 群臣や侍女たちがヤタノヒメミコを軽蔑することは決してありえないのだが、彼女の塞いだ心は人を見る目さえも変えていた。そう、愛しい人を見る目も。
(ワケノミコだって、私のことを軽蔑しているわ)
 かの事件が起こって以来、ワケノミコと口を利いていない。だがそれは単に、彼女が大王の后という近寄り難い神聖な存在になったのであって、決して彼女を恨んでいるとか、軽蔑しているとかではない。むしろ、ワケノミコの心は、憧れの女性であったイワノヒメを亡くし、一心にヤタノヒメミコのことを思っているのだ。
 しかし、心の雲が、彼女の目も曇らせている。
(もう、あのころのようには戻れない。ワケやメトリたちと過ごした楽しい日々には。もう、私には大王様しかいないのに、なのにあの人は…)

 

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