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ミステリー・サスペンス・ハードボイルド

天使のように、泣け [第1話]

   

とある事件ののち腐りきった探偵・前園珠里(まえぞのじゅり)が対峙する事件は、人捜しだった。だが、依頼人の少女は本当のことを話さない。依頼を蹴った珠里を狙うのはカタギではないナイフ使いの男だった。
『天使のように、泣け』第1話 配信

※お知らせ
作中に出てくる『卵と探偵』は実際に電子書籍化していますので、珠里が探偵になった経緯を知りたい方はお読みください。ライトな探偵物語で3万文字程度ですぐに読めます。324円だった気がします。どうぞご贔屓に!

 

 やあ、また来たね。
 本は売れたかい? なんだっけ? ほら、あんたがあたしにくれたじゃないか。卵となんとかってやつ。……ああ、そうそう。『卵と探偵』だ。よくもまあ、あそこまで嘘を書けるもんだね。あたしが探偵業を営んでて、センセーと美沙が作家ってことぐらいしかあってないじゃないか。なんだって? それが仕事です? 作家ってのはみんなそうなのかい。呆れたねえ。
 それで? 今日も来たってことは、ネタが切れたかい。こっちも暇じゃないんだけどねえ。
 ……ああ、テレビを見てごらん。嫌な事件だよ。一家離散に人殺し――この商売やってると、どうしてもテレビの事件が近くなってくるねえ。あんたも知ってるだろうけど、うちは探偵業のほかにも警備会社をやってるから若い衆には気をつけろって言ってるのさ。物騒だからね。
 ……あのときの事件も、こんな嫌な事件だったねえ。
 

天使のように、泣け

 第1話

 前園珠里が探偵業(前作『卵と探偵』を参照のこと)を営むようになって数年ののち。
 ひよっこから抜け出した彼女は腐りきっていた。
 珠里の人生そのものを大きく変えた事件は、根深い遺恨を残し、関わった彼女の心を苛んだ。やけ酒と煙草、そして男が彼女の心と体をわずかなあいだ慰めるだけだった。
 先の事件は――名を真園寺事件という。いずれ語ることがあるだろう――いっぱしの探偵面をし始めていた珠里にとって手酷い裏切りであり、また探偵はすべてを負うことなど出来はしないと突きつけられた事件だった。
 依頼人との関わりを欲し続けていた珠里は、だがしかし、裏切りによる痛みをふたたび受け止めることが出来ず、簡単な浮気調査や使い込み、迷い動物探しに明け暮れ、日銭を稼いだ。だが、そのうちそんな簡単な仕事もしなくなった。
 毎日飲んだくれ、煙草を吹かし、男を求めては繁華街をうろつき、売られた喧嘩は買った。あちこち癒えない怪我をし、そのうち血が目立たないようにと黒い服しか着なくなった。
 彼女の悪名は高くなり、日増しに暗く、鋭くなっていく眼光から逃れようと多くの者が名を口にするにも憚りだした。

 

-ミステリー・サスペンス・ハードボイルド

前園珠里探偵物語 <全3話> 第1話第2話第3話

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