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綾乃さん 最終回 愛

   

平成27年4月5日、綾乃さんの四十九日の法要が行われる。

仁科さんの出席の確約を得ないまま、この日を迎えてしまったが、病院で様々な人間模様を見てきた佐藤さんは「大丈夫、必ず来る」と確信していた。

果たして、仁科さんはやってきた。その顔からはこだわりが消え、「昨日、母が暮らしてきたこの町を歩いてきました」と母、綾乃さんのことを素直に受け入れていた。

私と佐藤さんは仁科さんを綾乃さんが暮らしていたアパートに案内した。そこで、仁科さんが目にしたものは綾乃さんの愛が込められた品々だった・・・

 

終章 愛

天気予報では午後には止むと言っているが明け方からの雨は午前9時になっても降り続いている。

「松田さんの部屋は準備が出来てますから、山口さん、いつでも案内して下さい。あれを見せれば絶対分りますよ。」

昭和51年(1976年)に綾乃さんがこの病院に来てから39年、彼女のことをずっと見続けていた佐藤さんは私よりも思い入れが強い。

私は1日早く先日の夕方にこちらに来ていた。

手紙でも知らせてあったが、改めて佐藤さんに東京でのやり取りを報告すると、「それだけ母親への思慕の念が強いということですよ。必ず来ます、大丈夫。」と楽観的に受け止めていた。

「さあ、今夜は飲みましょう。松田さんも喜んでいる。
 前祝です。」

仁科さんに直接接した私が自信を持てないのに、病院で様々な人間模様を見てきただけに、見る目が違うのか。

仁科さんからは何も連絡はないが、佐藤さんと飲んでいるうちに、私はそれを「行かない」との断りではなく「行っていいのか」との迷いだと思うようになった。
「母親が諦める筈がないでしょう。」、遠藤先生の言葉ではないが、「母親に会いたくない筈はないでしょう。」ということだ。

時刻は午前9時半を回った。法要は午前10時半からだが、施主の欄は空けてある。

「道を間違えたのかな」

さすがの佐藤さんも落ち着かない。先程から時計ばかりを見ている。

 

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