幻創文芸文庫 (β)

小説好きの創作小説を無料配信*スマホ対応

SF・ファンタジー・ホラー

漂着のカルネアデス〜後編〜

   

漂着のカルネアデスの後編。彼我はすべての真実、情報を知り。一つの答えを導き出す。それは果たして彼にとって真の幸福といえたのだろうか。これは、彼の回答をなぞる物語、これは彼の回答を否定する物語。これは彼の幸せの物語

 

三章『再会』

 それは授業中のこと、隣の席の可憐が目に涙をためて僕を見ていた。
 何のことかといぶかしんだけど、今は授業中、口できくことはできない。ノートの切れ端でも回そうか、そう思って僕は手元を見た。
 すると、僕の左手が、勝手に文字を書いていた。しかし書いてある字が全く読めない。
 何か漢字を書いているようだけど……
 僕は思わず左手を押さえつけた。するとしばらく軽い抵抗をつづけ。やがて動かなくなった。
 たぶん彼女だ、何を伝えようとしたんだろう。
 さようならだろうか。
 今日、ついに中心核への攻撃を仕掛ける。
 この一週間で、僕と優理の解離現象はかなり進行した。それこそ今みたいに不意に別の人格が出てきてもおかしくないくらいに。
 僕は目を閉じる、そして自分の感情を全て押さえつけて、今日の放課後について思いをはせた。
 

*  *

 昨日ゼタが語ったことだ。
「思いのほか、人格の上書きが進んでいないようね」
「たぶん、あの子が拒否していると思う」
「なぜ」
 ゼタが椅子の上でふんぞり返って問診票を眺めている、僕は床に縛られて正座させられていた。
「アンタの研究資料から、ブラークを消す方法が出てきたらしい。って何も聞いてないのか?」
「あの子も私に疑心を抱いているから、素直に教えてはくれないと思ったのね、何も言ってきていないわ、私の前ではいい娘でいる」
「どんな話をするんだ?」
「お前に明かすわけがない、私はお前が嫌いなんだぞ」
 僕は思わずため息をついた
「そんなこと可能なのか、ブラーク、主人格を消すなんてことが」
「可能ね、あなたの場合は手遅れだけど」
「わかってたさ」
「イリスを受け入れられないと?」
「逆だよ、とっとと俺の体を乗っ取ってほしい」
「ははははは、そう、そうか。いい心がけね、じゃあそんな君に免じて、今日は一番の劇薬を注いであげる」
 そう言うと、ゼタは紫色の液体を注射器で吸い上げた。
「これは何の薬?」
「明日でお前が消える薬ね」
「あした……。明日は中心核に攻め込む日だ」
「ああ、だからこういうことよ、大人しく聞いて」
 そしてゼタは語る。
 この劇薬を体にうち、体に薬が馴染んだ頃、対となるもう一つの薬を打つことで、自我が完全に消滅する。その薬をアルティマニアで出撃している間の僕にうつらしい。
 すると僕がアルティマニアで出撃しているのにもかかわらず、僕の体は目を覚ます。
 あの子という人格が目覚めた状態で。
 そして僕のアルティマニアは行き場を失う、戻る肉体がなくなるのだからあとは消えるしかない。
 消えるしかないなら、その命、私のために仕え。
 そうゼタは言った。
 僕はそれに静かにうなづいた。
 そして放課後。僕らはゼタが用意した真っ白なパイロットスーツに身を包み、エッグに乗り込む、普段は注入しない粘液質な液体がエッグを満たし。そして。
 僕らは有無を言わさずダイブさせられた。
 僕らはまた、無数に連なるサーバー群を見下ろすような、そんな高度にいた。
 ここから全武装が転送される五分間が、僕の、人生で最後の友人との会話になるだろう。
 戦場に出れば、あとは指示を飛ばし合うのみだからだ。
「優理、可憐」
 二人が僕を見る。
「人類が今一番欲しがっている物を手土産に帰って、そして電脳化した沖田と打ち上げをしよう、きっと悔しがるぞ、あいつ」
 そう僕が言うと二人とも笑った。
 ああ、そうだ。僕は言わないことに決めた。
 お別れも、最後の感謝もいらない。
 だってそうだろ、僕が消えた後この席に座るのは彼女だ。
 僕は彼女になるだけだ。死ぬわけじゃない、お別れは必要ない。
「これより作戦を開始します」
 ゼタがアナウンスすると、僕らの目の前に僕らを包み込めるほど大きな光の球体が姿を現す。
「全員これに乗り込みなさい、作戦を開始します」
 そうゼタがいい、全員が僕を見た、皆僕の指示を待っているんだ。
「行こうみんな、部活動を始めよう」
 全員が頷き、光球体に乗り込んだ。
「先ほどした作戦を確認するわ」
 ゼタのアナウンスが流れ僕はそれにうなづいた。
「まず、このパケット偽装プログラムを使って、奴らの懐に潜り込む。あいつらも常時オンラインである程度の情報を収集し、そして吸収している、それにもぐりこめれば万々歳」
「潜りこめなければ?」

 

-SF・ファンタジー・ホラー

漂着のカルネアデス<全3話> 第1話第2話第3話