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ノンジャンル

モノクロビオラ 5章

   

竹内春菜、彼女は全てを知っていた。
模造線路の正体、そして、悪夢の正体さえも――。

 

 あんまり生きたくない。それは死にたいわけでもない、だけどできるならば生きることから逃げ出したい、そういうニュアンスが含まれている。
 僕は一生、思考という地獄から、日の光を浴びるという地獄から解放されないのだろうと、そう思って生きてきた。
 しかしだ。しかし、解放こそされないものの、それが地獄じゃなくなるのではないかと、ふとそんなことを思ったのである。カーテンを開けて、豆電球を切り、僕は目が覚醒するのを待たずにスマートフォンを起動させた。
 思った通り、春菜さんからのメッセージが届いていた。
『起きているかどうかはわからないけど、とりあえずおはようだよ。』春菜さんらしい文面だと思った。
 春菜さんとは、山を登った日以来会っていない。あのとき連絡先を交換していなければ、今頃疎遠になっていたかもしれない。
……いや、それはないな。と僕は考え直す。
 彼女はきっと、しばらく僕の人生と交わるつもりだ。つもりではないとしても、そうなることは必然だと思っている気がする。それは僕も同じなのだけれど。
 一歩的な思い上がりではないことを信じたいところだ――。
 そして、最後に会ったその日、僕は春菜さんに何かを崩された。何かを変えられた。何かを与えられた。
 しばらく会っていないからかもしれないけれど、あの時彼女に感じた恐怖に似た感情、それはもう全くない。皆無だ。
 こうしてメッセージのやり取りをしていることを、普段ならめんどくさがるようなタイプの僕が、なんと楽しんでいるのだ。
 だけどそれは、僕がずっと棚の上にあげっ放しにして、摸造された線路のことを思考から切り離しているからだとも言える。
 一体あれはなんだったのか――。
 ここまで考えたところで、僕は別の景色を無理矢理思い浮かべる。どうでもいい景色を、僕はひたすら脳裏に焼き付ける。そしてしばらくすると、そこには僕には似つかわしくない、安定が生まれるのだ。
 不安定に酷く似た安定。
 そして、スマートフォンの振動が僕を現実へと引き戻す。
『今日会えるかな? 聞きたいことがあるんだ。』そのメッセージに対して僕は、『いいですよ。僕から聞きたいことは特にないですが。』
 と、皮肉混じりの返答をした。
 そこには、模造線路については特に興味を持っていない、ということを伝える意図があった。
 いくら彼女と仲良くなっても、いくら彼女を信用できるようになっても、いくら彼女が僕と友であろうとしてくれても、僕は彼女と仲良くならないし信用しないし友にはならない。それは僕が僕であり続けるために必要な決意だ。
 だから模造線路のことも、どうだっていい。
 僕の悪夢は、所詮夢なんだし、その夢の中のさらに模造されたものになんて、僕は心を動かされたりはしない――。

「ぎりぎりおはようだね。倉耶君」
「11時って、ぎりぎり朝なんですかね。僕はどちらかというと、ぎりぎり昼な気がしますけど、まあとりあえずおはようございます」
 そうして僕たちは、家と高校(今となっては卒業してしまったが)のちょうど中間地点にある河川敷で、落ち合った。
 春菜さんは足をぶらぶらさせながら、楽しそうに微笑んでいる。
「案外久しぶりだよね。何してた?」
「いつも通り、何もしてませんでしたよ」
「いつも通りだね」
 相変わらず彼女の考えていることはわからない。僕が普段、人とほとんど話をしないせいで感覚が鈍くなっているのだろうか。
 いや、恐らく春菜さんに関しては誰だって摩訶不思議に思うはずだ。
 僕らの出会いは全くロマンチックではなく、その後もひたすら意味のない会話をしながら、嗚咽のするような光景を見せられながら、そしてまた意味のない会話をしながら――。

 

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