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SF・ファンタジー・ホラー

死神の鏡身 二話

   

死骨つもる砂浜に、数多の恋文が眠る。誰にも揺り起こされることもなく。少年の寝顔を見守り続ける。世界が交わり交差するこの場所で。少年の運命が動き出す

 

「アキラ、お湯沸いたよ、熱いから水で薄めて使ってね」
 そうクジュがアキラにシャワーの使い方を説明する。タンクにお湯を入れ、好きな温度になるまで水を入れる、そして蛇口をひねれば上からお湯が降り注ぐ、そういう作りのシャワールームだった。
「おいおい、別に服を着替えるだけでいいだろ、そこまで体が冷えてるわけでもないだろうし」
「え? 言ってなかったっけ? アキラ泊まるんだよ、だからシャワー浴びるのは当たり前でしょ?」
「いつそんな話になった?」
「今さっき」
「あ、そう」
 その時、不意に衣擦れの音が聞こえた。
 この空間で布を纏っているのはアキラのみ。
(ということは、脱ぎだしたのか)
 反射的に振り返りそうになるシャオ、その足を思い切り踏んづけて止めるクジュ。
 そんなサイレントコントが見えていないのか、アキラが一人心地につぶやいた。
「不便ですね」
「機関には、電気でお湯を沸かせる装置があるんだろ? 確かにそれと比べたらめんどくさいかもしれないけど、まぁ今回限りだと思うし、我慢してくれ」
「ええ」
「あとお姉ちゃんの服と下着しか合いそうなものなかった。使う?」
 そうクジュが差し出す衣類。泊まる準備などしていないアキラへの配慮。それは白いふわっとしたパジャマと下着。
「おまえ、いくらサイズが近いからって他人の下着使いたがるわけ……」
 スッと白くしなやかな腕がシャオの意見を遮るように伸ばされる。
「私、これでいいですよ 入ってきますね」
 アキラはそう微笑む、満面の笑みと共に着替え一式を胸に抱きしめ、すりガラスの戸を閉めた。
「いいのか、他人のでも」
「アキラって、お姉ちゃんのこと大好きだったし、別に平気なんじゃない? それよりご飯作ろうよ」
 そう言ってクジュは奥の台所へ入っていった。
 シャオの住む家はいったって無味簡素だ。
 部屋には最低限のテーブルとハンモックがあるばかり、それは別に貧乏だからというわけではなく、余計な部屋はいらないとクジュが望んだからだ。
 シャオは職業柄この家でご飯を食べて寝ることしかしない、それなら部屋が多くあると掃除とかのときに手間がかかる、だから広い家は要らない。
(そう、広い部屋は要らない。そう言ってあいつと俺が一緒に暮らし始めて二年)
 今でも、少し狭い気はしているが特に不自由はしていない、二人で仲良く暮らしている。
「でも、なぁクジュは自分の部屋欲しかったりしないのか?」
 シャオは部屋の片隅に壁を背にして座り、そう声をかけた。声に反応しクジュが調理場から顔をだす。
「なんで? どうしたの、いきなり」
「お前も、いい年だからな」
 そう言われてクジュは考え込むようなしぐさをする。首を傾けて上を向く。その姿は見ていて愛らしい。
(そういえば、あいつもそんなしぐさたまに見せてたっけ)
 今日はよく昔を思い出す日だ。昔見たあいつの姿が、クジュに重なって見える。
 本当にそっくりだと思った、クジュとは違い小生意気ではあったけど、笑った顔の愛らしさは全くいっしょ。
(そういえば、教師ってあいつのなりたい職業だったよな。子供が好きだからって)
 ふと視線を落とすと、クジュが両手をついて覗き込むようにシャオを見ていた、目と目が合う。
「どうした、クジュ?」
「このままでいいと思うよ」
「なにが?」
「へや……。いらないって話、ただでさえ少ないお兄ちゃんとの時間が、もっと少なくなるよ」
 そうクジュが顔を近づけた、それはまるでシャオの表情を必死に読み取ろうとしているように見えた。
「そんなの、いやだから」
「クジュ……」
 シャオはクジュを抱き寄せる。そして頭を撫でた。
 手のひらに、柔らかい毛の感触があった、細やかな息遣いそれがあまりに不安そうでシャオは両腕に力を込めた。
「あっ」
 そしてその時、がらりとシャワールームの戸が開く音がした。
「……。何をしているのですか。ろりこん」
「えっ」
 シャオの顔面温度が一気に上がっていく。
「あっ、いやこれはだな……って!」
 シャオの顔が見たことないほどの速度で動いた。アキラの声がしたほうを向いて、そこから。
 見てはならないものを見て、顔をそらす。
「お前バスタオルのままうろうろするな!」
 アキラはシャワーに時間をかけないタイプらしい。
 濡れた髪もそのままに、バスタオル一丁に仁王立ちで一部始終を見守っていたらしい。
「脱げたらどうするんだ」
「あなたのほうがまずいでしょう 人がいるのを忘れて情事ですか、しかも相手は妹。しかも十二歳」
 アキラは冷たい目でシャオをにらんだ。その視線が深く深くシャオに突き刺さる。
「違う、これは兄妹のスキンシップだ」
「そうだよアキラ。私は十三歳で血はつながってないからセーフだよ」
 何を言っているんだろう、今クジュは恐ろしいことを言っているのではないかと、シャオの思考が冷えていく。そんな中やっとの思いでシャオはクジュを引き剥がした。
「というより、私のクジュに手を出すとどうなるか。海の藻屑にしてあげましょうか」
「違うって言ってるだろ、話を聞いてくれ。本当に何もないんだ」
「問答無用!」
 その瞬間だった、アキラは自分のバスタオルの裾を掴み、引きちぎるように脱いで見せた。
 そこでシャオの思考はいったん停止する。
 まるで脱いだかのように見えたからだ、だが違った。アキラはバスタオルを翻してうまくシャオの視界を遮り、その不意を衝いてアキラは渾身の一撃をシャオの鳩尾に叩き込む。
(今日……二度目か)
 シャオは意識が霞行く中、そう思い、そしてわずかに微笑んだ。

*  *

 

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