幻創文芸文庫 (β)

小説好きの創作小説を無料配信*スマホ対応

SF・ファンタジー・ホラー

cat 〜その想い〜 20

   

“村鮫児童教院”の清掃員の老人と、対話をしていくなかで、ここにいる児童はとんでもない運命をもっていたことを知る。

 普通の学校のような施設だ。笑顔もあり、ふざけあっている、仲良さそうにしている子どもたちをみて、なにか不思議に思うことなんてなにひとつとしてない。

 だが、ここにいる子どもたちは未来がないのだ。

 そういう生き方をしなければならない教育の現場は子どもたちにとって、伸び悩まされている欠点があった。

「親の愛に飢えている」

 親が見捨ててこの施設に預けたというのだ。
 ここにいる子どもたちが施設を卒業して、社会へ出るとなると欠けた性格が彼らを苦しめる。

「コミュニケーション不足」

 社会というのはこれがないと生きていけない。だが、この施設はそういう面が育たないのだ。
 だから”死への階段”をみずから上がっている、と噂されているのだ。

 その事実をしった岱馳は自分になにか子どもたちにできないか、自問自答する。そして、みつける。

 自分の趣味から抜け出せない夢の形。絵葉書のメッセージ付き作品を、親の愛をしらない子どもたちに贈るということ。

 これはチャンスだと思って岱馳は覚悟を決める。

 

 重い空気を取り払うようにその老人は再び話しだした。
「そういや、おまえさんはなんの用かね」
 岱馳はうろたえた。
「あ、いえ、ただの旅行者です。絵を描くのが趣味で休日を使って、カメラに自然の風物を収めようと宛てもない旅をしています」
 話し終えるまえに老人は岱馳の荷物を勝手に漁り絵をみていた。
「ほう」
 感心の眼差しでその絵をみていた。勝手にみられたせいか岱馳は過剰な警戒心が働き、老人から絵を取り上げた。
「勝手にみないでください」
「はぁ、こんな老人から何を取ろうというのかね。いやはや行く末短いこんな老人に、鞭打つような仕打ちときたら、世も末ということじゃ」
 独り言のように嫌味をチクチクと老人は吐いた。
「わかりましたよ、どうぞ」岱馳は不憫とおもい、折れた。「でも惨めな思いにはさせないでくださいね。これを真剣にやっているので」
 絵を老人にさしだした。
「もういいよ。ベー」
 子どもじみた真似で舌をだす老人に腹が立った。嘲笑された気分を受け、絵が下手といわれるより怒気が増す。
「まったく年甲斐もなく幼稚な真似を。この老人もこの施設に収容されているんじゃないか」心のなかで邪険な意見を吐いていた。
 突如老人は思いついたかのように向き直りはっとした顔でいった。
「どうじゃ兄さん。施設のなかみていくかね」
 気乗りはしない。こんな老人とつきあう時間など無駄だ。
「いやー、どうしよかな」岱馳は遠くをみるように施設をみていた。
「さ、きなされ」老人は笑顔で手招きする。稚拙な真似をみせた老人はすでにそこにはいなかった。
 岱馳はまよっていた。なにかうしろめたさがある。しかし、手を拒めていたら老人はバケツを片手に持ち、もう一方の手で岱馳の服の裾をしっかりと握り導かれるまま未知なる世界に連れ去られてしまった。

 踏みいれてはいけない世界。あまり意識していなかった世界。いまその神秘たる地への一歩の決心に腹を括った。なにか忘れている気がする。からだが軽い。物足りない。この軽快さはなんだ。
 老人は、さっさっ、と煽るものだから岱馳はあとをたどるだけだった。
 まぁいいか。施設のなかはまさに普通の学校と相違なかった。
「どうみる、この子たち」
 老人は授業を受けている子どもたちを見つめながら、岱馳にきいてきた。この老人は唐突な素振りをみせる。
「そうですね。いたって普通のような、おれが育った学校の授業と同様にみえます」
 ドアには丸いのぞき穴があり、廊下側から授業の風景をみることができた。
「そうじゃろ、そうじゃろ、うん」
 老人は黙り、子どもたちを見てはうなずいていた。岱馳も老人に習い、再び教室のなかに視線をむけた。

 ここの子どもたちは岱馳が過ごした幼少時代と同様の授業風景だ。
 先生の質問に大きな声で手を上げこたえる生徒。クラスに一人はいるひょうきん者はみんなを笑わせ教室内を和ませている。先生の話をきかずふざけあい、先生に注意される生徒。まったく普通の学校とかわりない。この子どもたちのなにが両親を苦悩させ、社会にでて苦海に身を沈ませるようなことになるのか、この光景を目の当たりにしては理解できない。

 

-SF・ファンタジー・ホラー


コメントを残す

おすすめ作品

RAT <二十四>

にゃんと素敵な東雲市役所猫支店 芦葉ハヤトの報告書 その①

我が主君!!【25】

サクリファイス クロニクル編22

アストラジルド~亡国を継ぐ者~アグランド編 第33話「過ごした二年間」