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SF・ファンタジー・ホラー

cat 〜その想い〜 21

   

 岱馳は絵葉書で、施設の子どもたちにプレゼントを贈ることへのリスクを考えていた。しかし、些細なことだった。働いている岱馳にとっては”時間”だけが重要になる。作品を描きつづける時間があれば特に問題はなかったからだ。
 しかし、タブーがあることを院長は話す。メッセージを込めるときに、記すコトバというものに、意味をさして考えなければならなかった。

 親の愛をしらない子どもたちには、なにを伝えなければいけないのか、頭を捻らせるだけの要因がここにある。

 岱馳の想いとは裏腹に施設の子どもたちは、おそらく初めて外部から届いた贈り物について、賛否両論な意見が勃発してしまい、男女間で対立まで引き起こす原因となってしまった。
 院長の村鮫は、それでも最後までやりぬいてほしい、と願うものだから、岱馳はその願いを信じて最後の一枚まで描き続けた。

 それから数十日後、院長から連絡がきた。施設にきてほしいというのだ。
 岱馳にとって引け目を抱いていた。内部の諍いの元凶となってしまったのだから。
 まるで子どもたちが作者に叱責の攻撃を与えたく、呼び出されたのかと思ったからだ。

 杏那との夢の代価、そして代償は作者にある。なにを指摘されようと岱馳は逃げることはしない。それが決意を固めた者の責務と思っていたからだ。

 だが、そこには笑顔の子どもたちの顔が、岱馳を見上げていた。

 

 なにかをすることはかならずといって、そのリスクを背負う必要がある。人は夢を抱きその目標にむかって努力をする。その夢のために代償を支払う必要がある。単純にいえば金だ。金銭が必要不可欠。なにをやるにしても出費がかかるもの。借金をしてでもその夢を成就させたいと懇願するのは必須。うまくいけばそれいじょうの大金がはいるかもしれない。これは賭けだ。その一瞬の判断への決意と勇気が必要。それがリスクというものだ。
 背負うことで夢がかなえばいくらでも返せる。その自惚れた青年期の自分ならなんでもできる。才能ある天才、などとちょっと目指す道を心得ただけで己が雲の上の存在だとかんちがいしてしまい、現実と幻想と夢の錯綜した交差点の中央でぶつかりあい、思考力は稚拙な世界観のまま成長せずに身を崩壊させる。だから平然と金銭の支出の計算ができなくなってしまうのだ。
 夢とリスクは表裏一体、切り離せない関係なのだ。いままでの生活に支障をきたす恐れは十分に考えられる。その代償が自分の一途な想いが夢をかなえ、あたえられる結果を導きだす。その気持ちを重んじるから人は夢を抱きつづけ生きる希望を見いださせる。

“村鮫児童教院”の施設の子どもたちは五十人いる。下は0歳児から上は十五歳までいるというのだ。今年もこの施設から卒業する子どもが五人いる。毎年少しずつ旅立っていく。そして不定期に子どもが増えていく。いわばまた捨てられ預けられた子どもが施設に入院するわけだ。十五歳の春になるまで療養することになる。
 だれにいわれたわけでもなく、自ら望んだわけでもなく、ただ単に風が吹いたからその風力にのせられ自分の居場所を探すために旅立つ。
 そこは未知なる世界。人とのつきあいコミュニケーションを強いられる世界。他人との触れあいに躊躇するたびに遠ざかっていく人たち。施設の人たちだけが家族であり、生きる意味をおたがいに理解しあえる仲間なのだ。この領域から外の人間は自分たちには気にもとめず、自分たちの言葉もきかず、素っ気なく他人に干渉しない稀薄な秩序があり、世界に対抗するだけの免疫が施設の子どもたちにはない。
 世間という場のなかで苦手意識な状態のまま送りだされても、成長という呪縛に拘束された鎖から解放されない限り社会へは通用しないだろう。
 生きることに躊躇した瞬間、たったひとつの個体は都会のビル郡に囲まれた冷たいコンクリートの街につぶされてしまう。もがき苦しみその挙げ句の果てが“死”という領域にからだの一部が触れたとき、死への呪縛から逃れることはできない。あとはタイミングを待つだけだ。

 時間・時代・生は川の流れのようなもの。その流れにのれない者は地中深く沈む。弾かれる者もいる。流れにのってさえいれば普通に生きられ、余計な神経もつかわずに広大な大海原へと運ばれる。
 そこには未知なる可能性が待っている。だれもがそこをめざして成長していく。かんちがいしてしまうのが、そこへいけばだれもが希望どおりになると信じてしまう。
 人の願望とは、ときに残酷な結果へと落とされる。せっかくその未知なる大海原へと導かれたはずがまわりの同等の存在によって騙され“死”へ誘われてしまう。
 生きるためのリスク、それは現実で、生きることつまり死ぬことがゴールなのだ。

 岱馳と杏那のペアリングとおなじだ。右手の薬指に指輪はない。

 

-SF・ファンタジー・ホラー

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