幻創文芸文庫 (β)

小説好きの創作小説を無料配信*スマホ対応

SF・ファンタジー・ホラー

死神の鏡身 三話

   

 シャオは失ってしまった日常を徐々に取り戻していく。
 それと同時に、シャオの住む都に不穏な影が下りる。
 この町に何が起こっているのか、シャオはしるよしもない

 

 死神の鏡身 三話

「違う」
 少年の前に立った時、そんな言葉が自然と出た。
 黒い布で全身を覆ったその人物。
 口に次いで、思わず手が出た、その顔をもっとよく見てみたかったから。
「違う」
 二度目の否定の言葉をポツリ。その幸せそうな顔が神経を撫でたから。
「なぜ」
 なぜこんなに幸福そうなのだろう。なぜこんなに、無防備なんだろう。
 刃から守れるような上着も身につけず、腹を出して寝ている。唯一身を守れそうなのは身にまとう風よけのマント、そして単なる装飾でしかない上着。青い石を削り出していくそうにも重ねた、降ればチャラっチャラと音が鳴って居場所を伝えるもの。
 こんな物を身につける神経が、少女には理解できなかった。
 下は短パン、水を吸わない素材、光沢のあるもの、そして腰布にポーチ。それが彼の身につけている者の全て。
 少女はそんな青年の隣に歩み寄り、少年の顔を覗き見た。中性的な顔立ち、月光に洗われて輝く銀の髪。
 髪に触れようとして、少女は指を止めた。赤く塗られた自分の爪がやけに邪に見えたのだ。
 少女は赤い爪をなめる。

 少女はひとりだった。
 少女は少年の傍らに膝をつき、天井を見上げる。
 溜息を一つついて。そして少女は少年の首へと手を掛けた。
 紅い爪を滑らせ、冷たい指先を触れ合わせ、細い指でからめ取るように、少しずつ力を入れていって。そして。

 その時だった。
 どういうからくりだろうか、少年に触れた瞬間、少女の目に、瞼の裏に。さまざまな景色が浮かんで消えていく。
 そのどれもに赤い長髪の女の子が微笑んでいた。
 そのどれもが少年に向けて笑いかけてくる。
『シャオ、私はこの世界が好きだよ、例え滅びかけていても、お前たちがいる、この世界が好きなんだ』
 あわてて少女は少年から手を離した。自分の心臓が高鳴っていることがわかる。どくどくと耳の奥で響く音を聞いて少女は、生きていると安どのため息を漏らすのだ。
「今のは……」
 少年の記憶。きっとそうだろうという確信が少女にはあった。それがなぜ見えたのかも少女は見当がついた。
 しかし、そう思い直し乗除はナイフを手に取る。服の袖に隠しておいたのだ。暗闇で光を移さないように黒く塗ってあるそれを少年の首筋に押し当てると。
「シトル……」
 そう少年がうめいた。それだけでもう、少女は耐えきれなかった。

 シャオが夜中に目覚めると首の周りに痛みを感じた、じんわりとしみるような痛み、不自然な痛み方だった。心当たりはまったくない。
 寝違えたのだろうか、だとすればカイリュウを枕にしていたせいなのだが、そんな風にかんぐっていると、湖の方からチャポンと音がした。

*  *

 シャオは日が昇るころにカイリュウに揺り起こされ、帰路についた。家の重たい扉を押し開けると、アキラとクジュがあわただしく身支度を整えている最中だった。
「うわ、いまさら戻ってきたよ」
 扉に背を預け、パタパタと駆け回る二人を眺めるシャオにクジュは嫌味っぽくそう言った。
 歯ブラシを口に突っ込み、寝癖を直すので必死そうだ。
「シャオものんびりしていないで身支度を整えてください、今日から学校に行く約束でしょう?」
「ん?」
 シャオはわざととぼけた反応を返してハンモックに横になる、そして目を閉じた。
「そんなこと言ったっけ?」
「言いました、約束したでしょう?」
 アキラは腰に手を当て、シャオに説教を始める。
「大体、こんな時間から眠るつもりですか? 逆に体に悪いですよ」
「ほっとけ」
 シャオはたまらずアキラに背を向ける。
「シャオ……」
 ハンモックの綱がぎしりときしむ、アキラが手をかけたのだ、少しバランスが崩れる。
「なんだよ」
 アキラが耳元でささやく。

 

-SF・ファンタジー・ホラー


コメントを残す

おすすめ作品