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SF・ファンタジー・ホラー

cat 〜その想い〜 22

   

 岱馳は村鮫児童教院の院長から、絵はがきの仕事を依頼された。
 保育園、幼稚園、障害施設や、様々なセミナーに出演できるまでになった。すべては院長のおかげでもある。
 人の人脈というつながりが、こういう仕事として依頼されたことに。
 岱馳は思い知った。自分たち二人の夢には協力者が必須だったこと。岱馳はひとりでは成し遂げられない面を助けてもらったのだ。

 休むことなく労働に勤しむ日々に、岱馳は選択肢をひとつに絞り込む時期に立たされた。つまりが、会社の仕事と、絵はがきの仕事などだ。
 ついに、夏が終わるころに退職を決意した。

 順風満帆な日々を送れるようになった岱馳。今では、“絵かき詩人”として名を馳せていた。
 そんなとき、岱馳の心に変化が現れた。きっかけは、こういう充実した生活のなかでの気持ちの余裕からだった。

 荒れた大地が潤いはじめて、恋という欲の芽がでてきたのだ。

 恋は杏那だけのものだったはずが、岱馳はひとりの女性と出会ったことで、その気持ちに困惑しているのだった。

 そして、岱馳はある決意を固める。彼女と未来を築くための意思を。
 その女性を抱きしめていた。

 

 村鮫児童教院からの、仕事は順調に運んだ。村鮫院長の紹介でほかの児童施設で絵はがきを描く機会をあたえてもらった。絵を描くだけなら自宅でもできる。できあがったその作品は郵便ポストへ投函すればそれで完了。これが岱馳の仕事のはじまりと終わりの作業工程になる。
 時間さえあればいくらでも描く。保育園や幼稚園、身寄りのない子どもたちの施設や障害者の施設。どうやらくちコミでひろまったようだ。望まないPR、つまりが宣伝をしてくれているのが、岱馳の絵に触れた一般の方たちということになる。
 次々に教示、講師、展覧、セミナーへの依頼が舞い込んできた。仕事として舞い込んできた。もちろん村鮫院長をとおして岱馳のところに連絡がくる。すべては村鮫院長の手腕によるところなのだ。
 一人では前進することはできなかった。チャンスは自分でつかむもの、とだれでもいうがそうではない。他人との交流をつうじてどこかで接点が生まれ育成され数倍に輝くのだ。一人では永遠闇のなかでさまよっていただろう。なんら成果も見出せずに。
 杏那と将来のために幾ばくかの貯金をしていた。一人で暮らすには有り余る金銭が貯えられている。なにもしなくても五年も食べていける。いや、いまは猫の食費などもかかるから少し日数が減る。
 日常生活も含め物資が必要になったら購入するといった金の使い方をする。そのせいもあって無駄な物がなにひとつとしてない。必要な物しか部屋にはない。テーブル、椅子、布団、電気機器、衣類も、バッグ、靴、衣装ケース、食器、冷蔵庫に本棚、筆記具、アクセサリーそれぞれが一個として存在している。なにひとつとして無駄はない。無駄に増えていくというくだりでいうならば貯金がどんどん増していくだけだ。たとえ無駄と思ったモノでもそれは思い出という形になり記憶としてのこる。
 会社の社員と、“絵かき詩人”としての仕事を共に一日のなかで活用している。だが、二足のわらじを履くには足腰が弱っていた。鍛える必要があるのに怠っていた。かなりの比重がある。背中で支えるには荷が重かった。疲労が蓄積されていくのが十分にからだからにじみでていた。
 絵かき詩人としての立場のほうが多忙となり会社との併用が困難を兆しはじめた。
 もっともこんなにも嬉しい疲労感はないものだ。

 絵か会社か、どちらか一方を選択する時期に迫られてきた。いきなり会社を辞めるわけにもいかない。せめて年内はつづけなければならない。これまで迷惑をかけてきた。助けてもらい甘え放題だったのだから恩義がある。
 同僚や上司は、そんなことはない、おまえはよくがんばっていると励ましてくれはしたが、自身の胸中はまだ晴れてはいなかった。みんなに貸しがたくさんある。それを返さなければ前進できない。貯金は有り余るほどあるのにそれで返したことにはならない。心につたわってこそ返却を認められる。その実感がわかるまでは現状維持だ。つらいけど、せざるを得ない。

 

-SF・ファンタジー・ホラー


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