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死神の鏡身 四話

   

 シャオは初めて教壇に立つことになる、新たな自分への挑戦。それがシャオにとってどんな影響をもたらすかはわからない

 

 死神の鏡身 四話

 結局、シャオは授業の準備など何もしないまま教壇に立つことになった。教師陣からは授業内容が思いつかなければ、生徒たちとコミュニケーションをとるだけでいい、生徒たちに受け入れられることも重要だからと、アドバイスを受けていたが。
 シャオは無理にでも、何らかの教師らしいことはしようと心に決めていた。
 何せクジュがいるのだ、クジュの兄はすごいと思わせてやりたかったのだ。
 だから最初の授業は、シャオがこれは誰にも負けないと思う分野を教えることにした。
 探索では必須の技術『血法』についての授業である。
「血法とは、探索にもっとも必用といわれている術で、これを習得することで、遠くの人間に声を伝えたり、沢山の映像を同時に見たりできるわけだ」
「そんなこと知ってるー」
 そう、金髪をくるくるとまいた少女が言った、名前はココロちゃんだ。
「知ってるんだとしたらどこまで知ってる? っていうかお前らの授業の進み具合がわからないからこっちはどう入っていいのかわかんないんだよ」
 シャオはそう悪態をつきながら、普段腰にぶら下げていたポーチを取り出し、教卓の上に置いた。
「今、血法について知ってることを教えてくれ、それに補足する形で、説明するからさ」
 シーンとクラスが静まり返った。さっそく教師職の難しさを痛感したシャオだったが、それを見かねてか、アキラが手を挙げた。
「はい、私は何もわからないので最初から教えてください」
 アキラはひとりだけ大きめの机に座っていた。それがなんだかおかしくてシャオは思わず身を作った。
「じゃあ、一から」
 そうシャオは前置きをして語り始める。
「血法は自分の血を媒体に、ものを動かすことのできる技術のことだ。多くの探索者はこの技術で水を操って、壊したり、退かしたり、安全を確認したり、探したり、運んだりする」
 シャオは水の入った大きなビンと、血の入った小ビンを教卓の上に置く。
「血法はまず、自分の血が必要になる、それは動かしたいものの大きさによって量が決まる。それを普通の水に混ぜて、動けって念じると水を操ることができる」
 アキラがしつこく手を上げた、他の生徒たちはお行儀よくそのやり取りを見守っている。
「あー……。細かく説明するとだな。人の血は体を構成するために必用なものがすべてそろってる、それを水の中にたらすと、それを一時的に自分の体の一部として動かすことができる。そもそも人間の体の八割は水なんだ。できないはずが無い」
 アキラはふざけた調子で質問しているが、本当は血法の仕組みなど知っているはずだ。なにせこの都でトップクラスの有能さを誇る『オトヅメ』だ、知らないことがあるはずが無い。だがそれでも質問してくるのはシャオ授業の手助けのつもりなんだろう。
 実際、シャオの精神を安定させる役割をきちんと担えている。
 シャオは心の中でアキラに感謝した。
「見せてくれるんですか?」
 いつの間にかココロちゃんが教卓に急接近していた、目が輝いている。
「血法、見たことないのか?」
「うん、先生が嫌がって」
 クジュが言う、ちなみに席はアキラの前。
「わかった、説明しながら見せる」
 シャオが両方のビンのふたを開ける。
 片方の瓶に入っている赤い液体はシャオの血液、シャオは寝る前に数ミリリットルこの瓶の中に血を移しているのだ。
 その今まで蓄えた血を単なる水の入った瓶に注ぎ込む
「まず血をたらす。このとき血の色が見えなくなるくらいに薄くなると、どんな術者でも操れなくなるから、気をつけて」
 数滴落ちた水は、水流に巻き上げられたように丸く拡散し、唐突に拡散をやめた。半透明な赤いガラス細工が水の中にはいている、そんな風に見えた。
「こんな風に、赤いうちに念じる、すると固まる。これはもはや感覚、練習してくれ」
「練習したけどできないよ」
 ココロが口を尖らせて言った。
「まぁ、誰でもできるってほど簡単じゃないからな。それでも練習すれば誰でもできる」
「よく判らないこと言ってるよね」
「俺も、感覚で理解したからな、でも意外とわかるもんなんだよ。さて、ここからが重要で。この血法で作った物体には自分の五感を自由に宿せるんだ」
 シャオは瓶を手に持つ、すると、瓶の中の水が勝手に渦を巻き出した。
「視覚、触覚、聴覚なんかをな、移せるんだ。これができれば自分の身は一つだけど同時にいくつも仕事をこなせるんだ」
 次の瞬間水が勝手に飛び上がり、空中で一つの球体になった。
 赤と透明の二色でそれは構成されていて、それはまるで目玉のように見える。
「ひっ……」
 ココロちゃんが短く悲鳴を上げた。
「形は自由に変えられる。こんな風に」
 目玉は渦を巻き、金魚へと形を変える。
「体積も変えられるこんな風に」
 その瞬間金魚が三倍程度の大きさに膨らみ爆発した。あたりにピンク色の液体が飛び散り、それは無数の小指サイズの金魚に姿を変えた。
 うわぁ、と感嘆の声が上がる。金魚はそんな中を気取った様子で泳ぎ行く。
「痛覚は今あるんですか?」
 アキラが目の前の金魚を掴む動作をした、その指の隙間からあわてて逃げ出す金魚。
「お前見たいなのがいるからのせてない」
 クジュの目の前を金魚がひらひらと泳ぐ。
「痛覚を持たせると船にぶつかった時とか痛いから、持たせられるけど、あんまり痛覚は持たせない」

 

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