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死神の鏡身 五話

   

 そしてシャオは自分の運命と相対することになる
 意識していなかった、その死という存在を
 突きつけられる

 

死神の鏡身 五話

 シャオは問題の遺跡まで到達した。黒骨の鉄山。それがその場所の名前だった。
 要は、人の手に余る鉄の保管庫で。今残されている人間の技術では運び出すことはおろか削り出すこともできないほど固く重く長い鉄骨が、幾重にも重なってアスレチックのようになっている遺跡だった。
 かろうじて使えるのは、一面を黒く染めている砂鉄。鉄骨それぞれが触れ合うことによって削り出された粉末状のそれを持ち帰り利用する程度のことはできる。
 そんなマイナーな遺跡をククイが知っていることにも驚いたが。何より一番驚いたのは。
 黒い砂浜に赤々と血痕が残っていこと、そしてその血痕が遺跡の奥の方へ続いていたこと。
 まさかと、シャオの脳裏に最悪の光景が思い浮かぶ。
 思わずシャオは走った。見上げるほどの鉄骨の山、その縁に足をかけ、するすると上っていく。
 上り詰めると、殺伐とした鉄の丘が目の前一派に広がった、真上には天上、手を伸ばせば届くほどの距離。
 四方に壁、ここは真四角に切り出された空間であり、それゆえに風が感じられない。
 空気が循環する穴もないのか、酸素も少ない。
「ククイ、こんなところに本当にいるのか?」
 人がいれば気配があるはず、どれだけ離れていても、息遣いを消す訓練をしていなければ聞こえるものだ。さらに周囲には目玉を旋回させてある。そのすべてに何の反応もない。
 シャオはとりあえず鉄骨の山から下りることにした。その隙間に体を滑り込ませ。自由落下を開始する。
 人が通れるほどの隙間がある部分を狙って、体をひねり、時には鉄骨に足をかけ方向を変える。そして十数メートルの距離を降りきった時。
 足の裏に痛みを感じた。
「切ったのか」
 見ればシャオは裸足だった。らしくない。そうシャオは思う。サンダルを履くのを忘れるなんて初歩のミスだ。
 足の裏を見る、血が滴るほどにぱっくりと傷が開き、傷口に砂が入っている
「化膿したら厄介だな」
 その時、遠くの方から水の滴る音が聞こえた。今しがたシャオが鳴らしたような音だ。
「あっちか?」
 シャオは傷の手当てもせずに走り出す。
 鉄骨を乗り越え、くぐり、登り。そして水際までやってきた。
 音が近い、どこから、そうあたりを見渡した。
「ククイ! どこだ!」
 シャオの声が反響する、ただそれだけ、返事はない。
「いるなら返事をしてくれ!」
 そうシャオは水に足をつけて大雑把に洗い。サンダルを取り出してはいた。
 そして踵を返すと、そこには。黒い人影があった。
 人影というよりは黒い布で全身を覆った人物。全体的に華奢だが背は高い。
 ククイではなかった。
「あんた……」
 では、誰なのか、そう尋ねようと、その人物に歩み寄る。
 しかし、一歩歩み寄るごとに胸が騒ぐ。本能が警鐘を鳴らし、足が前に進まない。
 そして思い出した。ククイは、黒いシルエットの何かに追われていたのではなかったか?
 シャオはとっさに反応。大きく左へ飛んでそして黒いマントをかぶった人物の横を駆け抜ける、そして鉄骨の山を登り、距離をとろうと手をかけた。
 すると。手が滑った。
 水などのサラサラした手触りではない。滑る感触、そして感じる鉄臭さ。
 そうこの遺跡を訪れてからずっと感じていた鉄臭さ、ずっとこの砂鉄や鉄骨から香るものだと思っていた。けど違った。
 頭上に目を移す。そこには、ああ。そこには。
(最悪だ)
 ククイが胸を一突きにされ、鉄骨に突き刺さっていた。
 事故ではない。なぜなら天高くつき出したその鉄骨は鋭利とは言えない、強い力で叩きつけられなければこうはならない、自然現象ではない。
 だとしたら誰が。
「おまえか?」
 違うわけがない、シャオは早くもそう断定する。状況がこの人物が犯人だと告げている。
「お前がやったのか!」
 そう黒い布に手をかけた。しかし。次の瞬間。
 音が聞こえたのだ。そうその黒い布の向うから。鉄がこすりあわされるような、鋭利な音が。
 シャオは反射的に飛びのいた。
 その瞬間、黒い布の中から無数の刃が突き出してきた。
「なっ!」
 それを間一髪のところで飛びのき回避するシャオ。一瞬反応が遅れていれば。全身から血をふくことになっていただろう。
 そしてその人物はすべての刃を懐にしまうと穴の開いた衣服を脱ぎ捨てる。下に来ていたのは全身を覆うようなローブ、そして二本の白い腕には鎌が握られていた。錆びついて刃こぼれしているが、それでもシャオを殺すのには十分と、見ているだけでシャオには分かった。
(なんだよ、これ)
 その人物が発する異様な空気はまるで、そばにいるだけで息ができなくなるような、そんな錯覚に陥らせる。
「お前は……」
 そして気が付く、濃密な血の香り。それはククイからだけではなく、こいつからも漂っている。
「いったいなんだ」
 まるで誰かを殺すためにここにいるような存在、死そのものと言っても過言ではない存在。
「死神? まさかそんな」
 そしてその時、死神が動いた。唐突に鎌をふり投げる。その投合はすさまじく。シャオは回避しきれない、バックステップで体を半分そらしたが、腕に氷を引いたような感覚。そして血が噴き出す熱い感覚がはっきりと伝わった。
 背後で鎌が水に叩きつけられ、水しぶきが上がる。
 揺れたフードの奥で、にんまりと死神が笑ったように見えた。
「なんなんだお前!」
 そうおしゃべりしている暇もない。

 

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