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ショート・ショート

猫監視装置

   

猫の駅員さん、モコはみんなの人気者です。
いつも改札口で、にゃごにゃごと乗客たちを和ませています。
しかし、モコの本当の狙いは!?

 

 とある県の田舎町の駅前改札口で、俺はせわしく、にゃごにゃご鳴いていた。
 そして、一日の仕事、学校、その他雑用を終えて帰宅する乗客たちの背中を送り出す。

「モコちゃん、毎日、偉いね。今日もずっと改札員をやっていたの?」

 いや、何、好きでやっているだけさ。これが俺の仕事なんでね。俺は、声をかけて来たスーツ姿のお姉さんに愛想笑いで返す。彼女は、アフターファイヴになると、いつもまっすぐ帰宅しているらしい。真面目な女性なのだろうか。

「ねこちゃーん! あはは、くすぐったいよお!」
「きゃわいー!」

 運動系の部活帰りの女子高生たちが俺にたかり出す。
 この子たちは、猫と戯れる以外に娯楽がないのだろうか。
 そもそも俺は、決しておまえたちをくすぐってはいないよ。俺の方がいつもくすぐられる役なんだろう?

「猫さん、おつかれ。この後、一杯、いかがですか?」

 会社の飲み会からの帰りなのであろうか。
 酔っぱらった中年男が俺の頭をぐしゃぐしゃに撫でる。
 酒臭いし、ふらふらしているし、大丈夫か、こいつ?

「モコ。夕食にしよう。部屋までおいで」

 俺の飼い主である駅員が、キャットフードを盛った皿とミルクを注いだボールを、乗務員室に用意してくれていた。

 さて、今日も一日がんばって働いたし、給料を頂くとするか。
 俺は、ご機嫌だぜ、とアピールするため、にゃごにゃご鳴いておくとする。そして、飼い主を追いかけ、乗務員室のテーブルに置かれた食事にありついた。

「モコ。おまえは大変だね。おまえが改札口の受付をやってくれているばかりに、いつもお客さんたちの視線を浴びることになって……。中には悪意あるお客さんや好奇の眼差しでおまえに接する人たちだっているしね……。でもこんな寂れた田舎町の駅には、おまえみたいな一輪の花が咲いていないと……お客さんたちの笑顔を見ることがなかなかできなくてな……」

 そろそろ年なのだろうか。俺の飼い主はため息をついて、しょぼんとした視線を泳がせている。
 俺は話がよくわからないふりをして、猫なで声で励まし、頭を彼に擦り付けた。

 まあ、実際は逆なんだけれどね。

 俺が人間たちの見世物になっているんじゃなくて、人間たちが俺の見世物なんだよ。
 人間はひとりひとり、俺に接する態度や仕草が違うから面白い。
 駅前改札口の受付なんて、絶好の人間観察のポジションじゃん?

 

〈終わり〉

 

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