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幻幽綺譚<6> 現代応用解剖学実習(上)

   

 解剖実習は医学の基礎です。真摯に取り組んで下さい。
 ふざけた態度をすると、死者が怒り、幻幽の世界へ連れ込まれますよ。

 

 山田総合病院は、外科や内科はもとより、眼科、皮膚科、産婦人科などもある、かなり大きな規模の病院である。
 この病院は、都心から急行で二時間ほどもかかる山の中腹に建っている。
 山田総合病院のビルからさらに山を奥へ進むと、寺となる。
 歴史的には由緒ある寺なのだが、現在ではほとんど忘れ去られた宗派のため、寺を訪れる人は希である。
 病院の先に古ぼけた寺がある、というのは、具合の悪い話だ。
 山田総合病院は、恵まれない立地条件の場所にあるのだ。
 だが、病院の評判は高く、全国から患者が訪れていた。
 なぜ評判が高いのか?
 その理由の一つは、医者や看護師たちの態度にあった。
 医者や看護師たちは、いつも笑顔を絶やさず、熱心に患者の相談に乗ってくれるのだ。
 それらを支えているのが、病院長の山田勇二の笑顔と人柄であった。
 山田勇二は、言葉が悪い。
「やあ、おばあちゃん、まだ生きていたのね」
「え、手術で治るか、ですか。なんとかしますよ。もし失敗したら……、ごめん」
「私の病院で死んでも、責任はとりますよ。向こうの寺へ連れて行きますから」
 こうした不謹慎な言葉も、山田勇二の口から出ると、冗談として笑いたくなってしまうのだ。
 頭は禿げて、その分、立派な髭を蓄え、笑い皺に包まれた顔は、老練な落語家といった風貌であった。
 もちろん、病院であるからには、患者を笑わしていればすむ、というものではない。
 病気が治らなければならない。
 病院長を始めとして、山田総合病院の医師たちは、超一流の腕を持っていた。
 他の病院では、失明する、と宣言された眼の手術に成功した――。
 車椅子から立つことができた――。
 転移もなく、癌が完璧に消えてしまった――。
 などなど。
 こうしたことが口コミで広がり、全国から患者が殺到しているのである。
 このような病院を作り上げたのは、病院長である山田勇二の手腕である。
 医者としても一流、経営者としても凄腕、そして外見は穏和。
 只者ではないのである。

 

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