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ラブストーリー

天にのぼる <中編>

   

高校二年になった私たちは仲違いを解消するためにロードバイクで旅をする。
体調を崩すののかを見守ることしか出来ない私にののかはとある重大な秘密を告げる。
ののかが秘密にしていたこととは?
回想の中で愛は加速する。
『天にのぼる』中編

 

 つらつらとののかとの思い出を書き綴っていたら、深更に入って寝そびれてしまった。時計の針はL字を狭めた形をしている。
 元来、私は十時頃には床に就く人間で、電話がかかってきたのがその時分だったから気が立ったのだろう。
 ののかの死が悲しくないと言えば嘘になるが、それより強く感じたのが胸の起毛が逆撫でられたような不愉快さだった。
 なぜ、自分がこんなにも不快感を露わにするのか判断がつかないが、答えだけはわかっている。ののかに裏切られたのだ。
 私はののかと結婚するつもりだった。高2の夏にそう約束をしている。
 しょせんは子供の口約束にすぎないのだろうが、それを放っておくののかではなかった。あの手この手を講じ、仕事柄、結婚が認められない私に愛を伝え続けた。げんに互いの締めの言葉はプロポーズであった。つまり私は、悔しいのだ。
 ……そうだ。今でもはっきり覚えている。
 ののかと私はちょっとした仲違いを解消するために、夏休みをロードバイクで旅したのだった。

 当時、教師の「紀野 ののか立ちなさい」はさすがに減っていたが、ののかは高2でも問題行動をたまに起こしていた。
 ののかは善悪が判断できないのではなく、理不尽なことを理不尽と言って正したいわりとキッパリした子供だった。
 それで理不尽な目に遭っているのだから厄介なことだった。
 思えば、ののかは引くことを知らなかった。
 全身全霊をかけて闘っていた。
 突きつめてしまえばののかは生を実感するために傷つくことを恐れなかったのかもしれない。
 いやもっと言おう。
 傷つくことで生を実感していたのかもしれない。
 高1の終わりから乗り出したロードバイクでの危険な走りも考えてみれば辻褄が合う。
 昼休み、屋上手前のスペースで何度彼女に上手くやるコツを教えただろう。
 そのたびにうんうんと真摯にきいていたののかだったが、あるときやけに怒った。
「カンちゃんはそれでいいの!? そんなのなにも変わらないじゃん!」
「それでいいのかってどういうことだよ。変わらないって?」
 いきなりな言葉に戸惑っていると、なんで分からないの!? というように長くなりだした髪を振った。
「そのまんまの意味だよ。なにも変わんないじゃん。このまんま、ずーっとこのまんまってことだよ? そんなのヘンじゃん!」

 

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