幻創文芸文庫 (β)

小説好きの創作小説を無料配信*スマホ対応

SF・ファンタジー・ホラー

cat 〜その想い〜 26

   

 岱馳と猫は密室の部屋で拘束される。ドアの前にはバリケードがあり、外から呼びかけなければその存在は認められない。それを利用した岱馳。
 逃げるための口実になるかもしれないと、踏んでいた。
 小路が確認のために呼びかけるも岱馳は返事をしない。確認するために、バリケードを解除した小路。
 岱馳の思惑はここにあった。フェイクにかけられた小路を気絶させて、岱馳と猫は脱出した。

 が、逃げようにも負傷している猫の安否を気遣い、思うようにすばやく動けない。
 そして、残りの三人も行動に移していた。血眼で散り散りになって捜している。
 岱馳は上階へと逃げる。
「ひとりなら、なんとかなる」そう思った岱馳は、さらなる策を思いついて、決意を固めて階下をめざした。

 みつかってしまった。ふたたび鬼ごっこの開始。岱馳と犯人との鬼ごっこはついに大詰めをむかえた。

 負傷した猫を単独で逃がし、偶然にも代わりにぬいぐるみを手にして、犯人たちを騙した。
 そのトリックプレイに気をとられるうちに逃げようとしたが、視界を捉えた小路がピストルのトリガーをひく。
 身動きできなくなった岱馳は、ついに倒れた。

 銃口が岱馳の額にむいていた。絶体絶命の危機に、猫が現れた。

 それは猫が最後の力を振り絞り、ふたたび驚異の変貌を具現化する。
 そして、ついに決着。

 

 外の様子は依然と変わらない。男たちは目標の獲物を捕獲したことで優越感に浸っていた。追われの身であることは動かしようがない事実。白き悪魔からの呪縛は祓われたものの、おなじ人間が男たちの罪を報いさせるため都内を捜索していた。

 リーダーと秀雄は作戦を模索した。考えれば考えるほど煮詰まっていた。有効な思案など思いつかない。
「小路、ちょっとあいつら見てこい」
 リーダーの思案が及ばないせいで、矛先が二人にむけられた。
「殺すってこと?」
 銃をギラリとみせびらかせながら小路はいう。
「アホか、様子をみてくるだけだ。まだ殺さない。利用価値があるかもしれない」
 リーダーは小路のアホさ加減にうんざりしていた。
 小路は拘束したバリケードのドアの前で怒鳴った。
「おい、返事しろ」
 応える声はない。
「おい、大概にしろ。ぶち殺すぞ」
 一人でバカのように怒鳴り散らす間抜けな犬のようだ。ご立腹でも銃を盾にする虚勢バカ男はドアを開けるためにバリケードの解除に勤しんだ。
 バタン、ドアを開けた瞬間、小路は背筋が凍りついたかのように佇んだ。

 小路が拘束室にむかって三十分も経ったころ、ほかの三人は逃亡の模索を立てていたが、いい加減もどってこない男の身を懸念しはじめた。
「小路、遅くねぇか」秀雄がいった。
「遅すぎる、なにしてんだ。逃げたんじゃないか」孤徹が呆れ口調でいった。
「バカをいうな。あいつにそんな度胸はないだろ。おれたちとついてくるしかできない弱虫だ。可能性があるなら…まさか」
 秀雄の切れの悪い話に、リーダーは蒼白した。
「まさか、ってことだな」
 リーダーの表情を読み取った二人は嫌悪感を抱いた。蒼白顔にたがいをみわたす三人、いやな予感のまま拘束室へむかい解除されていたバリケードを見て察したとおりの結果に憤怒した。
 もちろんドアが開いている。
「くそ、やられた」孤徹が怒鳴った。
 部屋のなかに人がうつ伏せに倒れている。小路だ。嫌な予感が的中してしまったほど虚しいものはない。
 秀雄が抱き起こした。
「しっかりしろ、どうした。小路なにがあった?」
 小路は朦朧とした意識のなかでパクパクと口を開閉しながらこたえる。
「あいつら、逃げた……やられた……あほ」
 言語障害。脳しんとうを起こしている。秀雄はすぐに診断してみせた。後頭部から少しだが血がにじみでている。こぶもある。どうやら鈍器のようなもので後頭部を強打されたようだ。この部屋にはなにもない代わりに廃墟と化したビルのコンクリートの瓦礫が手ごろのサイズであちこちに転がっていた。
「あいつらは、どうした」
 いつになく孤徹が真顔だった。
 小路はそれいじょうまだ話せなかった。しばらく休ませる必要があった。
「きくまでもないだろ」秀雄がいった。
「そうだ、逃げた。だが、間抜けめ、バリケードをやぶり、迂闊にもドアを開けるとは、もっと監視の能力に長けたやつに任せるべきだった」
 元樹が吐き捨てた。
「くそ」孤徹は強固の壁を素手で殴った。

 小路は拘束室に閉じ込めたはずの猫と男の身を確認するべくバリケードを解いた。考えてみればとうぜんだ。ここからでられないイコール外からもこたえなければ室内に人がいるかわからない。拘束された相手にわざわざなかから返事などするわけがない。だが逃亡の好機はそこにある。
 小路はなかの二人が逃げたと勘ちがいし安易にドアを開けた。だれも何もこの部屋から逃げていなかった。むやみにドアを開けてしまったために小路は手痛い仕打ちを受けた。ドアは押し戸だった。ドアを開けたとき部屋に死角ができる唯一の箇所。それがドアの裏側だ。開かれたドアの裏側を調べながら入ってくる侵入者はいない。
 中の男はからだを平たくするようにして身を潜めドアの裏側にいた。荒廃したビルのコンクリートの一部を右手に握りしめて、外の男がはいってくるのを予測した。一人で訪れたことは足音でわかった。こんな安易な罠にかかる小路がわるい。不甲斐ないバカなやつが犯罪者の仲間にいたことに感謝する。
 反撃ののろしがあがった。

 猫はドアを開け、すぐ目測できる中央に寝かせていた。かならず視線はそこへ誘導されるため、囮になってもらった。害はない。ただ置いてあるだけだ。そこへ注意を一瞬でも向けさせたなら策略は成功。背後から忍び寄り気絶させるだけの時間が手にはいる。
「ドガッ」
 目的達成。
 予定どおり背後に潜む男は煥発いれずに侵入者の後頭部を瓦礫の石で強打した。もちろん死なないよう手加減はしたが、ほんとに手加減したかは覚えていない。石で人の頭を殴ったことなどないから加減の度合いなどわかるわけもない。死なずに気絶させるなど、どれだけの人たちがしっているというのだろう。その点ではまったくの素人だった。手加減の駆け引きを運に委ねた。
 男はうめくようにひとつ声を上げ床へ倒れた。悪人だとしても人は人、一歩まちがえば死への特急列車に乗車させてしまう。もちろん運転手は手にかけた岱馳である。

 危機迫る状況のなかで人を死のふちに立たせることなど経験がない。その興奮も冷めやむことなく、男に近づき生死を確認した。まだ息がある、すぐさま急ぎ足で猫を抱きかかえ部屋を出た。
「おだいじに」
 男の安否を気遣ったような言葉をいちおう投げ掛け、部屋のなかは一人の男をのこすだけになった。

 

-SF・ファンタジー・ホラー


コメントを残す

おすすめ作品