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ラブストーリー

天にのぼる <後編>

   

あなたに愛を。愛にすべてを。
『天にのぼる』後編

 

 
 目をしょぼつかせたまま喪服に着替え、M市までの特急に乗った私は、雑文を書き続けているノートを開くと胸に食い込ませるように立てて書き続けた。
 これからののかの葬儀がある。
 死んだ、亡くなったということが私は未だ苛立ちで受け入れられていない。
 だが、ここに書き綴る文面は彼女のことを思い出しながらも淡々として落ち着き、動揺してないように見える。
 私にとってのののかは、もう終わっているのだろうか。
 仕事柄いくつもの誕生と死別を見る。
 そのときの私は、いったいどういう心持ちだったろうか。
 それともそれらと最愛の人の死はまた切り離すべき事柄なのだろうか。
 未熟な私には考え続けることしか出来ない。
 とりあえず、ロードバイクの旅は無事終わったとだけ記す。
 その後、将来を約束した恋人同士となった私たちはちょくちょくお互いの家を行ったり来たりしたが本当に何事もなかった。
 ののかの初潮も来ず、痛みも吐き気も過ぎ去ってしまうとけろりとしていた。
 高3に入ったあたりだったか。
 ちょくちょくののかは学校を休むようになった。
 学校帰りに見舞いに行くことが増え、それがやがて病院へと変わった。
 ののかの両親はとっくに私とののかのことを周知していたようで、病院に見舞うと「家に戻ってののかのパジャマを取ってくるから、話し相手になってあげてね」などと言い残し、一人残していくことも多々あった。
 思えばあの時間が、一番いい時間だった。
 二人で話す時間は倍になったし、学校を休むののかに勉強を教えながら自分も赤本を開くという勉強時間の確保も出来た。
 ある日のことだった。
 いつもどおりにののかを見舞うためにエレベーターを降りると、紀野夫人に捕まった。 最上階のレストランフロアにまで連れて行かれて怪訝にしてると、夫人は思い詰めた顔で後れ毛を撫でつけた。
「神崎君には言っておかないとと思って……」
「なにをですか?」
「……あのね、ののか、次、大きな発作が起きたら最期なの。今は安定期で少しの入院で済んでるけど」
「最期……ですか」
 それはつまり、死ぬってことですか?
 私は唾を飲み込むと夫人に目顔で尋ねた。
 重い沈黙ののち、夫人は頷いた。
 信じられなかった。
 ののかが死ぬ。兄と同じ心臓の病で。

 

-ラブストーリー

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