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SF・ファンタジー・ホラー

cat 〜その想い〜 27【完】

   

 猫は白い煙のような化け物のすがたを現し、犯人たちを倒した。
 恐怖、それが犯人たちを臆し、偶発的にも衝突して勝手に倒れていった。

 倒すべき相手を倒して、役目を終えたかのように、化け物化した猫は元の小さき存在にもどった。が、ピクリともしない。
 まるで深い眠りについてしまったかのように。

 猫の上空から強烈な光があたる。それはまるで、天から舞い降りてくる天使かと思う光景だ。
 そして降り立つ。猫の横には人影がみえた。その声が呼びかける。
「あゆむさん」岱馳の名前を呼ぶ声だ。このビルまで誘導していた囁く声だったと気づく。
 その声が、杏那だったということも。

 やっと再会できた。この一年ものあいだ、ずっと意気消沈して人間らしくない生き方をしていた岱馳の傍らに張り付いていた。
 そこに占いのおばあさんが現れる。それがまさか、天と地を行き来するための案内の使者、天使だったとは思いもよらなかった。

 そして、別れのときが迫る。二人の愛の激情は幕が降りる。
 未練たらたらの岱馳だが、次なる人生を歩むだけのファクターを備えているのだから。夢の継承の絵、新たな傍らの存在である、その子。
 かけがえのない存在を認めながら、岱馳は前進するのだ。それが生あるものの定めなのだから。

【cat ~その想い~】ここに完結。

 

 猫から立ちのぼる霧のような白い湯気、上空からは猫にむけて光がかざされ、円形に波紋がひろがりをみせた。
 スポットライトがあたったみたいだ。光も強度を増しその強烈な光に意識が回復し、身を起こせるまでになった岱馳。 その光に目がくらみ額に手をあて目頭に影をつくりなんとか目を細め光のなかを目測しようと試みた。何かがぼんやり猫の上にいる。
 ぼやける目を凝らし何度もパチパチと開閉し見た。人の影のようにも見える。額に手をあてていたため、視界が狭くなっているせいで上空部分には気づかなかったが、天からあふれる光が猫へむけて、ふわふわと舞い降りてくる。それは細かい光の粒がまるで粉雪のように、もしくは桜が散る様をおもわせとても風情ある心落ち着く光景だ。その粉雪にも似た細かい光の粒は猫の身を覆うかのように降り積もった。

 岱馳の身も母なる胎内にいるかのような安堵に包まれ、生をあたえられたときの幼子のような感覚をよみがえらせた。
 見ているだけで優しくとても柔らかく、思考回路がすべて遮断されなにも考えるちからがなくなった。その優しい光が我が身に染み込ませるように、ゆっくりまぶたを下ろし全身に光のエネルギーをあびさせようと両手をひろげ直立しすべてを委ねた。
「あ…さん、あ…ゆむ…さん」
 だれかが呼ぶ声がかすかにきこえた。おろしたまぶたをゆっくりあげ声の主を探ろうと左右に瞳を動かした。ふと視点をおいた。その視線の先には光が変わらず神々しく輝いている。だがそのぼんやりとしていた影が、いつのまにか鮮明に形成されていた。その影は猫を両手で大事そうに抱きかかえていた。
「ひとだったのか」
 気持ち安らぐその人物の美しさに思わず声が漏れ、見とれていた。その人物にはっと気づいた。我が目を疑った。
「あゆむ、さん」
 名前を呼ぶ女性の声がきこえる。この不可思議な光景のせいで錯覚と思ったその声は二度もおなじ調子できこえた。空耳だと素通りさせていた。
“ある記憶へ直結しないように”と、ごまかしていた。

 絶対にありえないこと、望んだものが手にはいることはときに無情にさせる。それが目の前に手の届くところにある。信じられるわけがなかった。
 その声は懐かしく、思い出深く、記憶に一番にのこる声、次の瞬間、からだも動かず金縛りにあったかのようにピクリともできない。声もでなくなった。くちをポカンと半開きにしているが、ノドの奥まで物を突っ込まれているようだった。
 猫を抱きかかえているその影は、よく知る人だった。
 こんな形で再会するなんて、やはり夢か幻か、はたまた悪魔のいたずらか、いつも夢でみてはいたが、それより遥かに現実味たる実感がある。失っていらいはじめての実感。
 女性の声が三度名前を呼ぶ。
「岱馳 歩夢さん」
 目からうっすらと涙がにじむ。その声がきこえるほうに堪えながら目を見開いた。歓喜きわまる。どうしようもない感情が岱馳を狂わせそうにしていた。
 緊張のあまり強張ったからだが緩み、詰っていたようなノドもやわらぎ、いちど咳払いをして話しだした。
「どうしてキミがここに…」
 いろんなことを話したくてしかたがなかった。めぐりめぐって考えでた言葉がこれだった。しかも、二言目は何も思いつかずしゃべれなくなっていた。すると、彼女は軽い感じに笑ってみせた。
「フフフフッ、やっと会えましたね」その女性がいった。
「あ、あっ、ああ」
 岱馳は、彼女の声をきくなり唸り声しかでなかった。
「フフフフフフッ、いつもあなたは焦ると言葉を詰らせて、そういうところ変わっていませんね」
 まるであの人のようだ。あの人の口調、あの人の声、あの人の仕種が男の思い出のなかにいるあの人の記憶と一致した。

 

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