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ショート・ショート

抜け駆けのために

   

タイトル 抜け駆けのために
カテゴリ 一般文芸
ジャンル ショート・ショート
あらすじ
古木 茂はまったくモテない男だったが気心の知れた彼女、仁科 佳織がいた。

主人公はある時、友人である東田や谷口のツテをたどり合コンを開催しようと思い立つ。いかにも彼女のいない友人に協力するという殊勝さが見える感じのイベントだったが、古木の目的は大々的な抜け駆けをして、友人である東田の妹や谷口の親戚である女優と付き合うことだった。

主人公は親切を装いつつ、着々と抜け駆けの布石を打っていったのだが……

 

「ほらっ、頑張れ! 気合い入れてもう一度追い込め!」
「お、おおうっ!」
 関東地方の某県に存在する、とある中小規模の総合病院。
 そのリハビリテーションルームの中から、男たちの野太い声が響く。
 重そうなバーベルやダンベルが床にぶつかり合い、金属質の音を立てる。
「そうだっ、苦しい時にはイメージするんだっ! 何人もの女の子から賞賛される自分の姿を。何もせずとも褒めたたえてくれる彼女たちの声を!」
「お、おおっ!」
 悲鳴じみた掛け声を上げながら、恰幅の良い若者が全身の筋肉を膨らませ、床に置かれたバーベルを持ち上げた。
 大量のウェイトが備え付けられたバーベルの重さは百キロを優に超えている。
 それは、異様な光景だった。
 リハビリルームにいるという割には、歯を食いしばって汗を流す男たちの体にはどこも痛んでいる様子はなく、機能性を重視した練習メニューでもない。
 部屋に置かれた器具も、専門的なスポーツジムにあるような品々で、高価な割にリハビリには向いてそうにない。
 だが彼らは並々ならぬ情熱を持って、白衣を着た男の指示に従っていた。
「なっ、なあ、これで俺たちにもようやく出会いがやってくるんだよな」
 二十キロもあるダンベルをせわしなく上下させながら声を上げた小柄な若者に向けて、白衣の男は自信たっぷりに頷いてみせた。
「もちろんだとも。何だかんだ、人間は見た目で決まる。特に学校や職場が同じでないならその傾向が強いし、イベントならなおさらだ」
「おおっ、経験者は語るってやつだな。相手がいる古木の言葉なら信頼できるよ」
「まあ、あの娘が特別って気がしないでもないよ。ウチのなんか、確かに見た目はいいけどね……。おや、噂をすればってやつらしいね。古木、ドア開けてやりなよ」
「そうだな。サボらず続けてくれ」
 仲間の言葉を受けて、白衣を着た古木はその場を離れ、ドアを開けた。

 

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