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幻幽綺譚<6> 現代応用解剖学実習(下)

   

 夜桜の下で演じられる薪能。幽玄の世界ですな。
 でも、桜の木の下には死体がある、と言われています。
 地面の下には幻幽な冥界があるのです。

 

 バレット・オニールは、ブランデーを飲んだ。
 思い出すだけでも苦しい、という記憶は誰にでもあるものなのだ。
 そして――、話を続けた。
「あの戦争のとき、ドイツと日本は同盟国でした」
 山田勇二は、うなずいた。
 患者に見せている笑顔は消えている。
 真顔で、話を続けるバレット・オニールを見ている。
「ゲオルグ・ユーベルシュタイン、いや、ゲオルグ・フランケンシュタインは、日本人の医者と連絡を取っていました」
「それが、私の父だというのですか」
「そうです。あなたのお父様は、陸軍の高等軍医でしたね」
「軍医ならば、沢山いました……」
「山田さん、腹のさぐり合いはやめましょうよ。もう一度いいますが、私の標的はフランケンシュタインなのです。山田さんからは、情報を知りたいだけです」
「……」
「証拠はあります。戦争末期、日本へ向かったドイツの潜水艦から、動いている心臓が押収されてます。ゲオルグからお父様へ宛てた手紙といっしょに」
「ゲオルグ・フランケンシュタインは、どうなったのです」
「ベルリン爆撃で死にました。死体が確認されています」
「彼の研究は?」
「フランケンシュタインの研究の全貌が分かるまで、一年かかりました。そしてその時は、研究ノートは消えていました」
「ソ連軍が持っていった?」
「いいえ、研究ノートは息子のハンスの手に渡っていました。そして、息子も消えました。父親が残した研究を続けているのだと思います」
 バレット・オニールは、山田勇二を見た。
 敵の捕虜を尋問するときの口調で、話を続けた。
「息子のハンスは、父親のノートから、あなたのお父様の事を知った。それで、ハンスはあなたに会いに来た。一年前に。おそらく、研究の最後の詰めのために。そうでしょう?」
 山田勇二は、大きく深呼吸をして、頷いた。
「すべて、お話いたしましょう。私の書斎へ来て下さい」

 

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