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ラブストーリー

幕末の悪魔

   

 鬼妖組(きようぐみ)。
 それは新選組に対抗する組織。

 縁側でたそがれている女副長の元に、羽織をかけに来る人の影。
 彼こそが想いを寄せた人物なのだが――

 

 
 鈴虫が鳴いていた。
 音野真琴(おとねまこと)は縁側に腰かけて、庭から聞こえてくる虫の音に耳を傾ける。今宵は半月だった。雲は全くなく、月光が趣ある庭を照らしている。廊下の電気はつけていないため、頼りになる光はそれ以外にない。
 庭は随分と広かった。小石が敷き詰められた中に飛び石があって、右に行くと池に、左に行くと松の木の隣を抜けて外の門へと進める。
 広いのは庭だけではなかった。この屋敷自体もやたらと広い。真琴自身、屋敷の全ての部屋の位置を正確にわかってはいない。
 こうもこの屋敷が広いのには、きちんとした理由がある。
 ここの統治者が鬼妖組(きようぐみ)の局長、如月逸樹(きさらぎいつき)だからだ。
 鬼妖組とは反幕府勢力を取り締まる、新選組に対抗する組織だ。さしずめ、反幕府行動を行う悪の組織といったところか。
 鬼妖組は史上もっとも悪質な組織とうたわれている。そのゆえんは逸樹と副長の真琴、同じく副長の三好悠(みよしゆう)の三本柱による大胆で、かつ巧妙な悪事の数々を新選組がここ三年解決できていないことだ。
 何がそうさせているのかは鬼妖組に入隊する人の数が日に日に増大していくせいだろう。入隊志望者を募集しているわけではないのだが、希望者がこの屋敷を訪れてやまない。新選組がいくら捕まえても、それを嘲笑うかのごとく悪人が増えていく。
 ならば屋敷を叩けばよいと思われるかもしれぬが、そうされぬよう逸樹が何らかの手回しをしている。だがその詳細は、副長にさえも明かされていない。
 つまりなにゆえこの屋敷がやけに大きく、広く構えられているかといえば、増えてやまない隊員一人一人に寝床を提供するためと、逸樹の威厳を外部に知らしめるためだった。
 真琴は横に置かれた盆上のせんべいをかじる。
 日が沈もうとも気温はまだ夏を引きずっていたが、肌をなでる風は季節の変わり目を伝えていた。
 羽織を引き寄せようとしたが、自室に置いてきてしまい、今は着ていないことを思い出した。取りに行こうかと一瞬は思ったが、なにせ真琴は面倒くさがり屋である。代わりにもう一口せんべいをかじった。その時だった。
 両肩に新たな重みが降ってきた。見てみれば羽織がかかっている。
 真琴は振り返った。

「羽織も着ずにこんなとこいたら風邪ひくぞ? もう季節は秋だぜ」

 

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