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ミステリー・サスペンス・ハードボイルド

44口径より、愛を込めて episode2

   

不安な生活と不安定な偽り夫婦の間でも、支えてくれる人々は多かった。
唯一出来ることは、一日も早い事件解決を望むこと。
そのため、定期的に行われる催眠療法にも協力するのだが、やはり思い出せることはない。

本格ミステリー!
44口径より、愛を込めて

 

「おはよう、魔夜ちゃん。これから病院かい?」
隣で優しい笑みを浮かべながら穏やかに挨拶を交わすのは、陽太君の上司である麻薬取締官の加藤健作(かとうけんさく)。通称、ケンさん。とても面倒見の良いお父さん的な役柄で、陽太君と並ぶとまるで親子のようだ。虐殺事件から私達の担当として色々親身になってくれている人達で、ほぼ毎日のようにこうしてお店に顔を出しに来てくれる。ケンさんと陽太君が居たからこそ、私達は今の生活を受け入れる事が出来たのかもしれない。
「おはようございます。はい、これから病院です。変わりはないですけどね」
「そう、気をつけてね」
 ケンさんが、軽く手を挙げて見送ってくれた。その後大雅と何か話していたようだけれど、多分いつものやつだろう。何か変わりはないかとか、何か思い出したことは無いかとかの簡単な質問。
 私は店内の三人についてそれ程気にも止めず、お店の脇に駐車してある会社貸与の軽自動車に乗り込んだ。それ程まだ強い暑さを感じないとは言え、初夏だけに車内の熱気には不快感を覚える。エアコンが効くより早く、私の背中は汗で濡れてしまった。
 麻薬取締官。通称としてマトリ、麻薬Gメンとも呼ばれ、特別司法警察職員としての権限が与えられている。警察庁が国家公安委員会の特別機関なのに対し、麻薬取締官は厚生労働省地方厚生局に設置された麻薬取締部に所属する職員である。
 通常麻薬取締官になる為には、薬学や法学に関する専門知識を大学にて専攻する必要があるのだが、あくまで私達はマトリの保護下と言う名目での特別扱いなので、特別司法警察職員としての権限は認められていない。だから現場に出向くこともないし、捜査に参加することもない。あくまで、武器レンタルショップ及び記憶を取り戻す事が主たる務めだ。
 また、ケンさんが私達の担当となったのには理由がある。なんでも十年程前から捜査しているヘロイン密売ルートがあり、その手がかりになりそうな裏取引情報が過去に二回だけあった。なんの因果か五年前と三年前、それぞれ大雅と私が巻き込まれた虐殺事件がそれだった。
 虐殺事件に関しては、入院中、テレビや新聞等から情報を得る事は禁止されていた為、ケンさんや陽太君から聞いたニュースの内容だけなら今でも覚えている。

 

-ミステリー・サスペンス・ハードボイルド


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