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ハートフル

モモヨ文具店 開店中<15> 〜モモヨさんと筆ペンの達人〜

   2015年8月14日  

五年後のことが分からなくったって、毎日は巡っていくわ。
今朝のお客さんはホームレスのおじいちゃん。
戦友が亡くなったから弔辞を読むんだっていうんだけれど、ちょっと妙なのよ。
私の頭に浮かんだ疑惑が外れればいいんだけど。
『モモヨさんと筆ペンの達人』へどうぞいらっしゃい!

 

モモヨさんと筆ペンの達人

 五年後にどうなってるかなんて分かったもんじゃなく、ましてや今、どうにも出来ない事態に策のない百代さんは悩んでいた。
(タカにも愚痴っちゃったしなぁ)
 先日のタカアキさんへの態度もいろいろとまずい。
 なにか彼なりに思うところがあったらしく松野沢に帰って行くとき変だった。
 とはいえ、なにが起こっても毎日は規則正しく回っていく。
 掛けられることの多くなった【本日休業】の黒板を下げると、日の昇りだした早朝から店の前を掃除していた。
 夏休みになったからか、ゴミのポイ捨てが多い。
 綺麗に掃き清め、せっせとモモヨ文具店の立て看板を拭いていると「おい、ねーちゃん」と背後からしゃがれ声がかかった。
「はい?」
 肩越しに振り返ると、腰の曲がった老人がいた。
 全国紙の朝刊を、伸びて生地の薄くなったビニール袋に突っ込んだ、ごましお頭の老人は小刻みに震え、冬の枯れ枝のようだった。これから暑くなるというのに襟首のよれた長袖に膝の出た長ズボン。顔は垢でテカテカと光り、長いこと風呂に入ってないようで独特の臭いがする。
 ホームレスらしかった。
「ここは文房具屋だな?」
 言って、百代さんの磨く看板を指さした。
「はい、そうです」
 目をぱちくりさせていると、老人は歯の抜けた顔をくしゃくしゃに歪めて笑った。
「ここならありそうだ」
 古ぼけた建物を見上げるとさらに笑みを深くした。やっと見つけたというような深い満足に満ちた笑みだった。
「何かお探しですか? うちで取り扱ってる物ならいいんですが」
「なあに大丈夫だ。あんたの店ならかならずある」
 百代さんが膝を払って立ち上がると、老人はごましお頭をぺろりと撫でた。
「ふでぺんてのはあるかい」
「ああ! 筆ペン! ありますよ。どうぞこちらへ」
 引き戸をあけると、熱を持ちだした太陽が背中を灼いた。

 

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