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SF・ファンタジー・ホラー

幻幽綺譚<7> 山間の画廊

   

 仕事に疲れると、のんびり、温泉にでも行きたくなります。でも、温泉にも幻幽の世界が待っていたならば、どうしたらいいのでしょうか……。

 

 辻原安雄は、温泉街の中央通りを、ゆっくりと歩いていた。
 辻原安雄は、頭が禿げ上がり、恰幅がよい。
 選挙ポスターの写真にすると、実に頼もしく見える。
 歩く姿も貫禄がある。
 外見だけは――。
 道の両側には、みやげ物屋や饅頭屋が軒を連ねている。
 最近流行の、手作りアクセサリーの店もある。
 それら間には、射的場、スマートボールなどの、古典的な温泉街名物の店があった。
 だが、それらは営業していなかった。
 昼過ぎで、まだ日が高いのだ。
 この通りがにぎわうのは夜になってからである。
 昼日中で、かえって侘びしげな通り――。
 両側には山が迫っている、山間の温泉街であった。
 辻原安雄は、心に伸し掛かる問題を考えながら歩いていた。
 辻原安雄は、ある県の知事であった。
 過去形である。
 選挙で負けてしまい、今は浪人中なのであった。
 知事になったとき、辻原安雄は天下を取った気になった。
 誰もがちやほやする。
 裏の利権で、湯水のように金が入ってくる。
 それが自分の実力であると思ったものだ。
 だが、二期目の選挙では、負けてしまった。
 その途端、人々は去って行った。
 それだけではない。
 選挙費用を立て替えた業者からは、返済が矢の催促である。
 今度の選挙では、どうしても捲土重来で勝たなければならない。
 心は、そのことで占められている。
「独りになって、じっくりと選挙の作戦を練りたい」と、支持者達に言い、この温泉へ来たのであった。
 なにやら、中原を目指す諸葛孔明みたいであるが、本音は違う。
 支持者、実は、金儲けの運命共同体であり、多額の借金をしている債権者達からの逃避なのであった。
 もし、今度の選挙でも落選すれば、さらに膨大な借金を背負うことになる。
 だが、知事に返り咲いたとしても、業者の言う通りになって、金儲けに精を出さなければならない。
 どっちに転んでも、陰鬱な未来なのである。

 

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