幻創文芸文庫 (β)

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SF・ファンタジー・ホラー

RAT <一>

   

 夜の繁華街に君臨する麻薬の売人、俺は降りしきる五月雨に濡れていた。怪しげな洋館に誘われ、狂老人に出会う。そこから不可解な事件に巻き込まれて行く、近未来SFミステリー。
 

 

 
 俺がラットに出会った日、突然の雨に降られて俺はある洋館の陰で雨宿りをしていた。今考えると不思議な巡り合わせであったと思う。道を行き交う通行人とすれ違うのも一つの縁《えにし》かもしれない。その縁について考えると、それは偶然もが必然たる不可解なものだ。
 その日の朝、晴れ渡る五月空がマンションのベランダから無限に広がっていた。あたたかく、期待に満ちた風が頬をなで、決まって反り返る後頭部の寝癖が生活感をかもし出す。大きなあくびを一つ吐くと、俺はタバコに火をつけた。マンションの十八階に吹き付ける透き通った風は、紫色の煙を玩具に遊び始める。
 今日が何日だったか。そんな事も、麻痺した俺の頭では換算できないのであった。市販薬に抗鬱剤、睡眠薬、安定剤、向精神薬、マリファナ、ケタミン、ウイスキー。それらが俺の頭に黄色いモヤをかける。それに昨日は手に入る薬もなく、十年ほど前に貰ったデキストロメトルファンを十二錠一気飲みした挙句、吐き気と幻覚を伴いぶっ倒れた。まだ意識は少し朦朧としている。
 タバコを吸い終えた俺は、フラフラと手探りで、まるで家宅捜索が入った後の様に散らかった部屋の中から携帯電話を探し当てた。
 今日は五月二十二日。一昨日、風営法違反のクラブで出会った女とデートする約束をしていた。名前すら思い出せないものの、顔や声、話し方なんかは全て覚えている。身長は少し低めで、顔立ちはテレビに出ているようなアイドルみたく、のっぺりとした顔の中に宝石でも埋め込んだ様な目をしていた。話し方は決して男に媚びる様な感じではなく、ハキハキと自分を主張する俺の好みのタイプだった。そんな一大イベントの前日にオーバードズで倒れている場合では無い。頭が回らず、用意が一向に進まない。取りあえず熱いシャワーを浴び、寝癖のついた髪を熱心に洗った。ボーっとした感覚の中、いつまで俺は髪を洗っているのだろう? と思った。ふと時計を見ると二十分経っている。まずい、まだラリっている。

 

-SF・ファンタジー・ホラー


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