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死神の鏡身 七話

   

シャオはすべての事後日常に戻ることができた、かの様に思えたが。非常にも突きつけられたのは、タイムリミットだった

 

死神の鏡身 七話

 翌日シャオはクジュより早く学校に赴いた。
 木造の校舎を見上げ、一階の脱衣室で着替える、朝日で白く空気が煌く中シャオは床をきしませながらゆったりと歩いてく。
 不意に職員室の扉が開くのが見えた、そこから白装束の男たちが続々と出てきた。
 彼らはシャオの顔を見ると一瞬目を見開き、まるで見てはならないものを見たかのように視線を逸らした。
 彼らは治安維持部の人間だった。
 治安維持部は機関の一部だ、その名の通り住民たちの安全を守ることを生業にしている。犯罪の予防と対処が主な仕事だが。のんびりしたこの都に犯罪は少ない。なので代わりといってはなんだが、祭りや行事の運営の手伝い。災害の際の避難誘導を率先して行っている。だから今回の事件は、彼らにとって久々の本職だった。
 そう、久々の本職、二年前の事件以来だ。
 そう言えばと、シャオは自嘲気味に笑う。二年前の事件にも今日の事件にも自分が関わっているなと思ったのだ。
 あの時も今回、ククイが死んだ事件も自分は事情聴取はされない。彼らに避けられ忌み嫌われ、なかったものとして扱われる。
 それはシャオがかつて禁忌にふれたためだった。
 シャオは過去に思いをはせそうになった自分に鞭を入れ、思考を切り替える。この仕事についてまだ三日目、しかも昨日なんて何も仕事をしていないのだから実質二日目。
 しかも三日目の今日も、ククイの葬儀や状況説明などでほとんど教壇には立てないと来ている。
 せっかく立てた授業の計画も練り直しだった。
 そんな愚痴を、シャオはアキラにこぼす。
 時間は昼飯時まで進み、太陽が一番元気な時間帯。シャオもアキラも普段着に着替えて中層の誇りっぽい野原を歩いていた。
「おれ、本当にこの仕事についてよかったのかな」
「シャオ、ククイの死はあなたには関係ありませんよ、それどころかあなたは自分の生徒を必死に探したでしょ、だからそれで充分です、もう悔やむのはやめなさい」
 そうアキラは優しく言った。しかしアキラは知らないのだ。
 ククイは、シャオがもう少し早く気が付いていれば助かったかもしれないのだ。
 たとえ、あの圧倒的な力を持った死神を前にして、一パーセントの勝率しかなかったとしても、シャオはそう思い、その業を背負っていくことだろう。
「授業計画については、私とまた見直しましょう、そう言えば社会科見学の日が迫っていましたよね」
「すっかり忘れていた」
 シャオたちが居住区に降りると。居住区は普段とは少し雰囲気が違っていた。まず明りが違う。
 いつものように煌く明りとは別に行燈のようなものが水路につけられている。
「生徒たちが来る前に、俺たちも」
「そうね、あの子の魂が迷わないように」
 その後シャオとアキラは、ククイの両親の元へ出向いた。
 泣きながら、行燈を配る両親の姿に胸を痛みながら。水路の脇の石畳に行燈を置いていく。ほのかに黄色い紙で三角錐型に作られたそれは、海へ流れ出す水路の脇に置く必要がある。
「これで何度目だろうな。人を見送るのは」
「シャオ……、泣かないで」
「泣いてなんてない」
 そう、自分は大人だから涙を見せるわけにはいかない。それこそこれからククイの遺体を海に流すのだ、その時には生徒たちも来る、その生徒たちの前で涙を流すわけにはいかない。
「今は泣いていいのですよ、シャオ」
「だめだよアキラ、俺は、クジュも来る」
「いいえ、シャオ、言わせてください。あの時できなかったことを、今私にさせてください」
 そうアキラがシャオに手を差し伸べ、シャオは無意識のうちのその手を取った。青白い水明りと、黄色い行燈のあかりがアキラの顔を照らし出し、普段より物悲しげにシャオには見えた。
「ごめん、アキラ、ごめん」
「クジュさんには内緒にしておきます」
 アキラの手を冷たい滴が伝う、立ち尽くした二人は無言のまま少年の死を悼んでいた。

*  *

 次の日、やっとシャオはまともに授業をすることができた。
 初めての全日シャオの授業に生徒たちも少し緊張しているようだったが、アキラはどことなくたのしそうだった。
 意外とアキラはシャオのことを茶化すこともなく、授業のフォローを入れてさえくれた。
 叶わないなとシャオはそのたびに苦笑する。
 シャオが生徒たちに教えるのは探索に必要な知識。
 各種文字の読み方。機械工学、職業の仕組み、歴史、遺跡での安全の確保の仕方。崩落しかけている壁や、もろい部分の見分け方。年代の判別の仕方。
 それらすべてを二から三年で教えていく。正直覚えなければならないことは莫大にある。
 だからなのか、授業の時間はあっという間に過ぎ去り、そして。
「じゃあ、今日はここまで。明後日には社会化見学があるらしいので。ちゃんと準備しておくように。解散」
 そう、帰りの集会の時間になってしまった。
 そしてこの後は大体の生徒がこのまま中層に残り、祭りの準備を手伝うらしい。
 そうクジュが言っていた。
 ちなみにクジュは口早に、絶対安静にしていること、包帯を取り替えること、今日はカイリュウのところへは行かないことなどをまくし立て、全速力で校舎から飛び出していった。それをシャオは二階から見下ろす。
「ちょっとそこの、けが人さん」

 

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