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SF・ファンタジー・ホラー

死神の鏡身 七話

   

 ここはカイリュウがいつも寝床に使っている遺跡、つまり始まりの場所。砂と石碑しかないその場所で新たに掘り起こした巨大な石板をシャオは解析しているのだ。
(と言っても、この場所のことはカイリュウに口止めされているから秘密、つまり上に報告できるわけでもなく、そうなればお金はもらえないんだけどな)
 石板の解読は難航していた。ただでさえ、公表できるほどの成果など上げていないが最古の文字の翻訳技術は完成しつつある。これが多く広まれば現在都で解析できていない石板を読むことができるようになるかもしれない。
 それでも時折、文字のような絵のようなものが間に挟まり、そのたびに文章のルール自体が変わっているのか読めない個所が何か所かあった。
『私が朝目を覚ますとなぜか浜辺で寝ていた、隣に正座した少女。ぽ会うおjんvぁういはlkjjhmれ。警戒を解いた私は少女と向き直ると握手を交わした』
 というような感じ。
「難しい、何度やっても意味が通じない」
 可能性はいろいろ考えた。
 この石版は水子が書いたもので間違いない、だとすればこの世界で一番最初の文字、だったらならこれまでの歴史の中でも一番単純であるべきだ。
 むしろ文字や文章のプロトタイプともいえるだろう、だとすればそこに本人が意図しない間違えがあってもおかしくないのではないだろうか。
 本人が、一つの文章作法にのっとって書いているつもりでも、間違ってしまっている可能性は捨てきれない。
 だって、カイリュウが文字を書くことは考えられず、文字を必要としたのが水子なら、彼女の間違いに誰が気が付いてあげられるっていうのだ。
(うーん、最初から考え直してみるか。やっぱり解読方法が間違っている気がするし)
 その時カイリュウがくるるるるるると鳴いた。
 歌でも歌っているつもりなのだろうか。今日はやけに独り言が多い。
(ん? カイリュウ?)
 時代の最初期。カイリュウ。違う言語体制。
 くるるるるるるる。
 さっきからうるさいなと、物思いから我に返る。カイリュウは何を喜んでいるのだろうか。
(まさか……)
 クジュがきたのだろうか、いやそんなわけはない彼女が祭りの準備を放り出してくるはずない、ならあとは誰がここにこれるだろうか。
「誰が」
 その時脳裏を駆け巡る一つの発想。
 映像、血の香り、痛み。そして……
「ま……さか」
 その直感が、盛ら螺した焦燥感に駆り立てられ、シャオは駆け出す。ところどこに放置された石版を乗り越え、乗り越え走る。
 坂になっている砂丘の下に泉が見える。そのそばでカイリュウがくつろいでいる。
 そしてその傍らに黒い影が立っていた。
 何を考えているんだあいつ。
 最初に感じたのは憤り。
 一瞬カイリュウがぼけたのかとさえ思った。
 いくら顔が似ているからと言っても、昨日俺を殺しかけた人間に警戒すらしないなんて。
 シャオはとっさに声を上げる。
「お前、カイリュウから離れろ!」
 とっさに砂丘を滑り降りるシャオ。
 間違いなかった、その黒衣、長い髪。自分と似た顔立ち。さび付いた鎌がその手に握られていなくても死神だとわかった。
 死神は緩慢な動作でシャオへと振り返る。
 シャオはその視界に収まっただけで、足を止める。
 大きな壁があるような錯覚。シャオは威圧されていた、切れるような眼光に気おされていた。
「なにをしにきた」
「…………」
 死神がカイリュウに手を伸ばす、その手をカイリュウは振り払うこともなく受け入れた。
「お前、いったいなんなんだ」
 シャオは目を疑った、死神とは殺戮を行うための装置だと思った、だから最初は感情もないものだと思っていた、しかし昨日は明らかな敵意と殺意をあらわにした、だから死神にはそう言う激情しかないものだと思っていた。
 けれど、目の前にいる死神はなんだ、目を細めて、頬を緩め。愛おしそうにカイリュウを撫でている。
『君が憎いから』
 そう言った時の彼女とはまったくの別人。
「俺が憎いって言ってたな」
 シャオは思い出していた。無数に灯る行燈、送り火、両親の涙、ククイの死。
「だからってククイを殺すのは筋違いだぞ」
「私が殺したんじゃない」 
 死神はカイリュウをなでる手を止めシャオに向き直った。
「私という死神がいたんだ、私以外の死神がいてもおかしくないよ」
 死神、この目の前の少女は自分のことを死神と断言した。
「だったら、ククイを殺したやつはどこに言った」
「消えたよ」
 役目を終えれば消える、それは死神の伝説では当たり前のこと。
「だとしたら何故お前は消えない」
「君が死んでないからに決まってる」
 死神は女の声で男っぽくそういった。
「お前は俺のなんだ。なんで俺と同じ顔をしている、なんで俺を殺そうとする。何故俺に死神なんかくるんだ」

 

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