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ミステリー・サスペンス・ハードボイルド

44口径より、愛を込めて episode3

   

妥協だとしても、何気ない日常が幸せだと感じる魔夜。
少し怖い半面、このまま続けばいいとすら思っていた。

本格ミステリー!
44口径より、愛を込めて

 

 誘導尋問が終わる頃には意識が霧に包まれるかのようにすーっとして、気付くとスッキリと誘導尋問中の出来事ごと消えている。とまぁ、思い出してさえいないのだから、消えると言う表現も適切ではないのだろうけど。
「魔夜ちゃん、お疲れ様。何か思い出しましたか?」
 誘導尋問を終えて、再度日向野先生の診察に入る。
「ごめんなさい。今回も、何も思い出せなかったです」
「……そうですか」
 日向野先生が、少し残念そうに諒承した。
「あまり効果がないようでしたら、また別の治療法を考えます。あ、くれぐれも今日のアルコール摂取は控えてくださいね」
「はい」
 毎度のことながら、申し訳ない気持ちでいっぱいだ。皆の気持ちに報いる為にも、少しでも早く事件当日の事を思い出さなければいけないなと思う。それが自分にとって辛い現実になる事は、安易に想像が付く。けれども同時に、被害者遺族への大きな希望となることも予想ができる。もしかしたら、私自身にとっても希望としなければならない情報が隠されているかもしれないし。
 それに、いつまでも大雅とままごとを続けていく訳にもいかないだろう。彼にだって、元の生活があった筈だ。夢があった筈だ。憧憬や理想なんかも。
「ありがとう、ございました」
 軽くお礼を述べて診察室を出るとき、婦長に呼び止められた。
「魔夜ちゃん、思い詰めないようにね。辛いと思うけど、一人で考え込まないで。気をしっかり。どうしても耐えられない時は、遠慮なく頼って来てね。微力だけれど、話相手ぐらいにはなれると思うから」
 そんなに煩悶しているように見えたのだろうか。
「ありがとうございます。今は、まだ大丈夫です。でも、その時は、是非に」
 極力笑って答えた私に、婦長も笑みで返してくれた。
 薬を貰ってから、病院を出た。戻るとケンさんと陽太君の姿はなく、客のいない店内のカウンターで雑誌を手に大雅が一人うたた寝していた。
 私は彼にそっと近付くと、軽い悪戯のつもりで相撲で言うところの“猫騙し”を一発お見舞いした。
 パン! という景気の良い音に驚いた大雅が椅子から転落し、ゴン!と言う音と共に壁に展示してあったライフルCOBA-M4が彼の上に落下した。
「痛ってぇ」
 後頭部を抑えながら、蚊の鳴くような声で呻きながら蹲る大雅。
「だ、大丈夫?」
 と問うしかなく、同時に彼の上のM4を拾い上げて展示し直した。
「何事?」
 まだ寝惚けているのか、しばしばした目に涙を溜めながら私を見上げる彼。
 引っ込みがつかなくなった私。軽い冗談のつもりだったのに。
「蚊、がいたの」
 嘘吐いた。
「蚊、ねぇ」
 納得してなさそう。当たり前か。
 大雅は尚も後頭部を擦りながら、コブになってるとか呟きながら立ち上がった。
「ねぇ、お昼どうする?」
 気付いたら正午を回っていた。話題を変えるいいチャンスだと思い、咄嗟にそう振った。
「作って来るから、店番してて」
「うん」
 よろめきながら店を出る大雅の背中を見送りながら、罪悪感に胸がいっぱいになった。
 ごめん。本当に、ごめんなさい。

 

-ミステリー・サスペンス・ハードボイルド


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