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ミステリー・サスペンス・ハードボイルド

見習い探偵と呼ばないで! Season1-3

   

 氷室探偵事務所に乗り込んだ御影。小柴と森谷に直談判する。不採用の理由が理不尽だと訴える。

 小柴と諍いになるも、一本の電話が鳴った。それは、御影と小柴の間に待ったをかける連絡だった。

 氷室が三階にいる。内線をかけてきた。氷室が御影と会うと承諾したのだ。

 御影はほくそえんだ。

 間近で初めてみる氷室名探偵の姿に圧倒されている御影。不採用の原因を訴えていたときの熱はどうやら冷めてしまっていた。

 だが、結果は揺るぎなかった。御影は氷室からも不採用と烙印を押された。

 怒りが急加速に沸騰して、氷室のデスクを叩いた。

 氷室になりすましていた森谷の不採用の判断は、氷室も同意していた。

 御影の不採用の原因がそれだと…。

 

 ズカズカと、二階の事務室へ進行する。もはや壁というものを崩壊していくパワーがみなぎっていた。

 扉を開いた。すると、小柴と森谷がいた。ほかにも女性の事務員が数人いたが、ちらっと御影の顔をみるなり、自分の仕事へと意識をもどした。まるで、御影という人間を無視しているかのように。

 小柴が対応した。デスク前で森谷もいる。クレーマーには慣れっこのふたりだ。

 探偵とは、いつも理不尽な結果に不満を漏らす依頼人の罵倒を、聞く役目にあるのだ。

「なんだこの空気は…」御影はつぶやいた。

「あら、いらっしゃい。どうしたの?」小柴がいった。

「やっぱり納得がいかねー。なんでおれは不採用なのか、どうしてもあの試験の結果に納得がいかねー。だいたいこのおっさんが採点したんじゃ納得がいかねー。代表の氷室さんがしたのであればまだしも、このおっさんはニセモノだっただろ。だから納得がいかねーんだよ」

 御影はマシンガンのように言葉をまくしたてた。

「そうね。あなたのいいたいことはわかる。でもわたしたちでも探偵の良し悪しの人物像というものを見抜く力はあるの。これでも探偵の助手を勤めている。ここにいるみんなね」小柴がうしろで熱心に仕事をしている事務員の女性たちに振り返る。

 御影も見渡した。「だけどさ―」

「わかっているわ」小柴の優勢を取らせないといわんばかりに御影の言葉にかぶってくる。「あなたは氷室さんが、採用に関与してくれると思っているの? 多忙者なのよ。採用試験に立ち会うほどお人好しでもないの、わかるでしょ。あなたもテレビでみて憧れたくちだというのなら。それとも自分は特別にって思った?」

「特別って思ってはいないですけど、ただこのままでは悔いがのこるだけだ。自分で見つけた道を、初めて取り組めそうな道を、自分で選択したんだ。これは自分にとっても本気の気持ちが宿っている。だから熱心になった。ここまできて試験を乗り越えてきた。でも、結果は不採用。それも理不尽すぎる内容だ。試験はぜったいに合格基準に達していると思う。センスの光が淡い、と思っているのでしょう。でもそれはおっさんがニセモノだったからだ。そんなまやかしに踊らされていたとなれば、おれは納得はいかない。氷室さんに結論をゆだねてほしい」

”プルルルルルル”。電話のコール音が鳴った。だれかがとっていた。

「それがあなたの願い?」小柴は気にせず来訪者にいった。

「それが、おれの願いです」御影はいった。

 両者、にらみあうように眼光がぶつかっていた。

「ナナ子さん、氷室さんから内線です」

「え? もどってきたのかしら?」小柴ですら氷室の行方を把握できていない。それだけの分刻みの多忙者なのだ。
「はい―」小柴は御影を放置したまま内線を出た。

 御影もそれを待った。無言のまま、放置されてもかまわなかった。本物の氷室なら、自分を主張できる。あとはこのビルのどこにいるか、そのヒントさえわかれば進撃してやる。

「わかりました」小柴は内線をきった。ずっと相槌の言葉だけで、会話からヒントを漏れなかった。

「これから、三階にいきます。氷室さんがいるから、きょう採用の面談があったことは知らせてます。いまなら、あなたに会えるとおっしゃってるわ―」
 小柴が御影に向けていった。

 御影は動揺した。向こうから機会を与えてくれたのだ。

「ナイスだぜ、氷室さん」御影は森谷を見た。「ふん」と鼻で勝ち誇った。

 この瞬間、御影の心は冷めていた。

 御影は、小柴とともにエレベーターで三階へあがった。

 

-ミステリー・サスペンス・ハードボイルド

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