幻創文芸文庫 (β)

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SF・ファンタジー・ホラー

RAT <二>

   

 異様な雰囲気の漂う洋館に招き入れられた俺は、そこで、ある狂老人に出会う。何もかもが不自然という新鮮さが、俺にとって忘れられない日になるとは……

 

 
 バタンと勢い良く扉が閉まり、心臓がキュンっと縮まった。結構な長さの階段を登ってきたのだが、目の前にあるのは薄暗い洞窟のような内装と、壁に沿って螺旋状に続く下りの階段だ。
 しかし麻痺した俺の頭では、それを不思議とすら感じずに降り始めた。
 どこからか雨漏りでもしているのか、ゴツゴツとした黒い岩を組み上げた壁は所々から冷たい水が流れており、その水を精一杯吸った苔が異様に繁殖しているのだった。
 外から見ると、この館は長方形の形をしているのだが、この空間は円柱をくり抜いたような。蓋の閉じた吹き抜けになっている。一歩階段を踏み外せば、暗闇の奥底、奈落の果て迄真っ逆さまだ。意識を足元に集中させ、フワフワと生い茂る苔を掴みながら、慎重に下っていった。
 暫くグルグルと階段を下っていると、底の遠くの方に光が見えた。あそこが終着点か。と思いつつ、一体どんな人が待っているのだろうと、少しワクワクしてきた。鼓動がひとたび脈打つ毎に、その微かな光が近付いて来る。最後の階段を下りきった時、俺の心の臓はエンストを起こしかけていた。

「さぁ、こっちや。こっちに入りなはれ」
 さっき聞いた声の主だ。気が付かなかったが、この口調からして関西系らしい。関西人は嫌いじゃない。少し言葉がきつく感じる時もあるが、その裏に込められた優しいあたたかさが、なんとも不器用な気がして俺は好きだ。
 さぁ、館の主に勧められるがままその部屋へ入ると、またその内装に驚いた。
 蝋燭の灯りが隙間風に揺らぎ奇妙な影を動かす。床と壁の造りは同じで、黒いゴツゴツとした岩を敷き詰めている。その延長なのか、岩を積み上げて造った立派な椅子とテーブル。その上にはチェスの盤が置いてあり、ゴロワーズの様なタバコの香りがする。
 主は、テーブルを境にこちら向きに座っており、肩肘を着いて真っ白に色の抜けた長髪をいじっている。もう片方の手で煙をくゆらせ、丸い縁なしの老眼鏡を鼻の先で引っ掛けている。何か悩んでいるかのようにブツブツと何かを唱え、チェス盤のビショップを睨みつけていた。
「あの……」
 俺が話しかけようとした瞬間、鋭い眼だけをこちらに向け、タバコを一口含み言った。
「おぉ、よう来たのぉ。さぁここに座りなはれ。今な、幽霊とチェスしてたんや。やけど強いわぁ~。あかん、全然勝たれへん」
 俺は流暢な関西弁を話す老人の前の席に腰掛けた。盤上を見ると、一人を残して、すべてのポーンがその幽霊? に取られていた。老人の取った駒はナイト一人とルーク一人。勝負はついた様に思われるこの陣形。しかし老人は肝心なことを忘れている。最期まであがいたポーンは、クイーンになりうると云う事だ。
 俺は老人にアドバイスをした。
「ここまできたら、ポーンに賭けるしかないなぁ。相手側のルークの場所が空いている。そこになんとかポーンを持ってけば形勢逆転のチャンスじゃないか」
 すると、老人の顔に少年が宿った。明るく無邪気な顔に笑顔が灯った。
「成る程なぁ。お前、なかなかの腕やな。ワシ全然気が付けへんかったわ。でもな、この幽霊な、めっちゃ強いねん」

 

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