幻創文芸文庫 (β)

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SF・ファンタジー・ホラー

RAT <三>

   

 俺はラットとの出会いに興奮していた。ラットと新しい生活を送る為、先ずはペットショップに出向くことにした。そこで出会った意外な人物。そして明らかになる幽霊とチェスで惨敗を続ける狂老人の正体とは……

 

 
 マンションに着くと、取り敢えずラットを家に置き、その足でペットショップへ向かった。ただ、ラットが何か悪さをするかもしれない。何か電気コードを噛んで感電死してしまうかもしれない。と思い、出かける前に簡易なケージを作った。
 ダンボールを半分に切り、そこにタオルを敷いて、ペットボトルのキャップに水を入れて置いた。これで、俺がペットショップに行っている間は大丈夫だろう。
 ペットショップは駅の反対側。マンションが西口にあるのに対して、ペットショップは東口だ。一度駅に戻り、階段を上り下りして東口にたどり着いた。
 空はまだ不服そうに灰色の顔を歪めている。雨はやんでいるが、じっとりとした湿った風が空飛ぶ羽虫たちを地面近くへと追いやっている。時刻は五時をまわったところ。駅は帰宅途中の学生で混み合っている。
 ペットショップは駅の目の前を走る国道沿いを真っ直ぐに十分程歩いた所にある。俺は国道沿いを歩きながら、何か心に引っかかる物がある事に気がついた。それが何なのか。それは帰り道にハッと気付く事になるのだが、それはあとまわしにしよう。

 ペットショップの自動ドアが開き、子犬の甲高い鳴き声や、興奮して走り回る子供達。小便臭いというか、独特の子犬らしい匂いが鼻をかすめる。入り口に入ってすぐ左に子猫や子犬がカプセルホテルの様に並んでいる。それらに目もくれず、俺は奥の齧歯目コーナーへと小走りで向かった。
 昔、ハムスターを飼っていたことがある。ゴールデンハムスターや、ジャンガリアン等の代表目では無く、色や柄のない無地のハムスター。(キンクマハムスター)というのを飼っていた。
 俺は元来動物好きで色々な動物を育てたが、意外と一番手間を掛けさせられた奴でもある。何が手間かって? それはせっかく買い与えた立派なケージの柵の部分を毎夜毎夜、囓るのだ。その齧る音に寝不足気味になり、段々と機嫌も悪くなってくる。
 ある日、大きな声で叱りつけた。それは躾では無く、逆ギレであった。しかし大きな声にビックリしたのか、それからしばらくの時間、大人しくなった。それにホッとして再度眠りについた。心地の良い眠りだった。そして翌朝目がさめると、ハムスターの身体は冷たく硬直してピクリとも動かなくなった。柵の鉄を噛みすぎて、鉄片が喉に詰まったのだ。
 もうピクリとも動かないハムスターを両手ですくい上げ、俺はジッと見つめた。それはあまりにも薄情で、残酷な死だった。胸のやるせない衝動が、目尻に涙を溜め込んだ。溢れようと、必死に騒ぐ涙に行き場はなかった。
 もっと早く気付いていれば。もっと早く別のケージに変えてあげていたら。俺は小さく懸命に生きる命に罵声を浴びせる事なんて無かったのだろう。
 俺はその小さな亡骸を裏の山へ埋めた。とびきり大きな楠の木の下に。
 時々、俺は自分に迷うと裏の山へと墓参りに行く。するとどうだろう、大きな楠の木が風になびいて葉を揺らす。そのざわめきが、俺にいつもヒントを与えてくれた。

 

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