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不思議なオカルト研究部 第一話 蕎麦屋の石臼 前編

   

「じゃ、蕎麦でも食いに行くか」
 え、なんで? と山田直也は思った。彼が部長の柳田邦彦に尋ねたのはサークルの活動内容についてであり、決して昼飯の話ではなかったから。彼が尋ねたのはこうだ――このサークル、フィールドワークとかするんですか? と。その返事が「じゃ、蕎麦」と来たものだから、彼の頭に浮かぶ疑問符も当然である。

「俺は見たのだ。古い石臼が回る様をぼんやりと眺めつづける白衣の老人を。あれは間違いなく、妖怪だった」

 

「じゃ、蕎麦でも食いに行くか」
 え、なんで? と山田直也は思った。彼が部長の柳田邦彦に尋ねたのはサークルの活動内容についてであり、決して昼飯の話ではなかったから。彼が尋ねたのはこうだ――このサークル、フィールドワークとかするんですか? と。その返事が「じゃ、蕎麦」と来たものだから、彼の頭に浮かぶ疑問符も当然である。
 しかしながら、周りの部員に彼のような反応を示す者はいなかった。それどころか、金色のワンレングスロングに赤いカチューシャを差した派手な女は「たまにはいいかもー」と乗り気だし、茶色のふんわりしたボブカットに化粧っ気の無い顔のもう一人の女など「蕎麦久し振りっす!」と既に食べる気満々だった。
(な、なんなんだ…このサークルは……)
 戸惑うのは大学一回生、たった今仮入部したばかりの彼のみである。初対面の先輩三人に囲まれて緊張気味の彼であるが、しかし訳も解らないまま蕎麦屋に連行されるなど御免こうむりたい。彼は勇気を振り絞ってもう一度質問を口にする。
「あの、フィールドワークと蕎麦……何か関係が?」
「当然だろう?」
 部長は呆れたような表情で言った。なぜ呆れられるのかさっぱりの直也には、その眼鏡の奥で光る知性的な瞳が妙に腹立たしい。が、次の瞬間、彼は驚愕の言葉を耳にする。その言葉の前に、小さな怒りの蕾など一瞬で消し飛んだ。
「妖怪のいる蕎麦屋に行くのだ」
「………へ?」
 この時の直也の顔は妖怪よりもよっぽど奇妙な――驚くような、小馬鹿にするような、げんなりしたような、なんとも言えない表情で固まった。そんな彼を余所に、部長は語り出す。
「俺は見たのだ。古い石臼が回る様をぼんやりと眺めつづける白衣の老人を。あれは間違いなく、妖怪だった」
「…いや、それどう考えたって――」
 どう考えたって店の御店主でしょうに――と直也は言いたかったが、その口を塞ぐように言葉を被せた女がいる。それは派手な方、つい先程「緑ヶ丘翠」と名乗った三回生だった。
「ま、取り敢えず行ってみましょっか」
 そうして颯爽と部室を後にしてしまった彼女の後ろ髪を追うように、部長ともう一人も続いた。部室に残される形になった直也は逡巡して、しかし好奇心が勝ったのか、それとも現場を実際に見て否定を口にしたかったのか――いいや、その両方が否だった。彼は彼をここに連れてきた張本人、茶色いボブカットの二回生を「可愛い! この人超好み!」と思っており、その先輩がああして付いて行ってしまったので足を向けただけ――そもそも、彼は妖怪やら幽霊やらにこれっぽっちも興味など無い。それがどうしてこの「オカルト研究部」を名乗る妖しげなサークルに仮入部などするだろうか? その先輩、石動美也がいるからだ。それ以外に、彼がここにいる理由も、蕎麦を食う理由も在り得なかった。

 

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