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RAT <四>

   

 やっと京子とのデートにこぎつけた俺は、正直何を話して良いのか分からず緊張していた。そこで発覚するラットの行方不明……ラットは一体何処へ行ってしまったのか?

 

 
 駅に着くと俺は周囲を見回した。
 もう京子は駅に着いているはずだ。
 だが目に入ってくるのは会社帰りのサラリーマン達の群れ。これから飲みに行こうって寸法だろう。だがそんな事、今の俺には関係無い。俺は京子に会いたいんだ。
 キョロキョロと見渡すと、ふと視界にとても涼しげな何かが飛び込んで来た。
 水色の花柄ワンピースに、オシャレな麦わら帽。その麦わら帽と綺麗な色のノンスリワンピースの間でそよぐ、艶やかな黒髪。大きく輝く目には何が映っているのだろう。
 京子は券売機の端で壁に体を預け、宙を見つめていた。ベージュのサンダルを履き、長く白い足がワンピースの裾を揺らせる。しばらくの間、見つめてしまったその容姿はもはや異様とも言えるだろう。
 フッと目が合い、ニコリと笑ってこちらへやって来る。
「ごめん! 待った?」
「いやっ、ちょうど今着いたところだよ」
 俺はキラキラと輝く京子の目を真っ直ぐ見ることができず、斜め上を見つめて少しカッコつけた。
「どうしたの? もしかして、緊張してる?」
 悪戯な女だ。自分がどれだけの美貌を持ち合わせているか分かっているはずだ。なのに、(純粋無垢)といった様な表情を浮かべるのだ。
 食事は駅から徒歩五分程の雑多な居酒屋がひしめいている中で一番オシャレそうな店を選んだ。店の扉を開けるとインターホンの様なものが鳴り、女性店員が何名かと聞いてきた。
「二名で、喫煙席で……」
 ありふれた規定の文句で、奥へと案内され、席に着いた俺たちは、ビールとハイボールを注文した。はじめの一杯はやはりこれだろう。突き出しのキノコとゼンマイのポン酢和えと同時に飲み物が運ばれてきた。
 俺たちは取り敢えず乾杯をし、俺は金色の湖に浮かぶ泡の氷山に口を付け、グッと一気に飲み干した。今日一日の疲れが、喉に流れる強烈な刺激と共に嚥下する。京子はそっとハイボールに唇を付け、スズメが水を飲む様にチビリと口に含んだ。
 突き出しのポン酢和えを箸で手繰り上げ、口の中へと放り込む。ゼンマイの苦味とポン酢の酸味が、ビールをもう一杯! と催促した。
 お代わりのビールが到着した時に、京子が食事を適当に注文し始めた。
「大根サラダとチーズオムレツ。それから……」
「あと、つくね。ぼんじりも一本」
 店員は電子伝票をピピッと操作し、一礼して厨房へと去っていった。
 一気飲みしたビールが胃袋にほんわりと温かさをもたらした。よく考えてみたら、京子ときちんと話すのは初めてだ。何から話して良いものやら、俺とした事が、全く分からなかった。

 

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